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常世語のお題(尚陽編)

割れた茶杯ゆのみ

「あっ……」
 指先が触れた途端、伴侶は慌てて手を離す。尚隆は一瞬先に起こる出来事を想像して顔を蹙めた。
「ごめんなさい!」
 けたたましい音を立てて割れた茶杯を見つめ、伴侶は泣きそうな顔をする。慌てて割れた欠片を拾おうとする伴侶の手を、そっと掴んだ。ただそれだけで、見る間に赤く染まる頬。

「──俺に触れられるのは、そんなに嫌か?」

 掴んだ手を離し、わざと哀しげに呟いてみた。ますます赤くなる頬に、ゆっくりと手を伸ばす。指が触れる前に、伴侶は見開いていた目を閉じた。小さく震える肩を抱き寄せると、伴侶は躊躇いがちに身を預ける。尚隆はにやりと笑い、首尾よく伴侶の朱唇に口づけた。

2007.09.10.
 
 またこんな恥ずかしいものを……。時代的にはかなり早い頃でしょうね〜。 陽子主上がかなり羞じらっておりますので。 それ以上に私が恥ずかしいです。
 (可愛い! との叫びを複数いただきました。ありがとうございます〜。2007.09.14.追記)

2007.09.10.  速世未生 記
(常世語のお題(尚陽編)「わ」)
背景画像「篝火幻燈」さま
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