「雨の降る季節」＠管理人作品第５弾

　皆さま、祭にご投稿及び拍手をありがとうございます。 数々の美しき桜たちに、まだ春浅い北国の住人は癒されております！

　桜開花情報をお知らせいたします。
　４／１８に山形、２０日に盛岡にてソメイヨシノが開花いたしました。 また、１８日には新潟にて満開宣言が出されました。 桜前線はゆるゆると北上を続けているようでございます。

　さてさて、管理人も久々に小品を仕上げてみました。 よろしければお楽しみくださいませ。

※　管理人の作品は全て尚陽前提でございます。

• 登場人物　　六太・雁の官吏・尚隆
• 作品傾向　　ほのぼの
• 文字数　　896文字

雨の降る季節

　朝から雨が降っていた。しとしとと降り続く春雨の音は、耳に柔らかく響いて心地よい。いつまでも聞いていたくなる。そう思い、窓辺に腰をかけた延麒六太は笑みを浮かべて外を眺めていた。
「──お出かけになる気も起こらないようですね」
　よいことです、と書簡を山ほど抱えた側近が笑う。余計なことを、と毒づいて、六太は外を見やったまま顔を蹙める。振り返らない六太には構わず、側近は笑い含みに続けた。
「そういえば、主上も雨を眺めておられましたよ」
「へえ」
　あいつも城にいるんだ、と呟くなり、六太は窓から飛び降りた。そのまま走り出した六太の背を側近の怒声が追う。そんなものには頓着せずに、六太は国主の執務室へと向かった。

　はたして国主延王は堂室の窓辺に佇み雨に煙る外の景色を眺めていた。六太はその広い背に声をかける。
「さすがのお前も出かける気にはならねえか」
　尚隆は六太の揶揄には答えず、僅かに肩を震わせて笑う。六太はそのまま尚隆の隣に立って共に細い雨の糸を眺めた。やがて、尚隆は沈黙を破った。

「──雨が降っているな」

　何を今更、と答えかけた六太を制するように尚隆は言葉を続ける。

「春、だな」

　六太は顔を上げ、主をまじまじと見つめた。尚隆は目を細めて雨を眺めている。穏やかながら楽しげなその貌は、春を待ち侘びる北国の民人と同じものだった。
　六太は笑みを浮かべて開け放たれた窓の外を見やる。そう、北国の冬は雪が降り続く。雨が降るということ自体、長い冬が終わったということだ。雨に湿った土の匂いは確かに春を感じさせた。
「──さて」
　ひとつ伸びをすると、ゆったりと踵を返し、国主は書卓につく。物珍しげに見つめる六太に尚隆はにやりと笑んで見せた。
「春は何かと忙しい。お前も仕事をしろ」
　その一言を聞き、六太は破顔した。尚隆が春雨に霞む景色に何を見ていたか分かったからだ。二つとない高貴な緋色の桜。凛然と、しかも匂やかに笑む隣国の女王を思い浮かべ、六太は応えを返した。
「花見の邪魔するほど野暮じゃねえよ」
「殊勝な心掛けだ」
　いつになく素直に心情を語る主の可愛げに免じて今日は真面目に仕事をしよう。六太はそう思い、国主の執務室を後にしたのだった。

2011.04.20.

後書き

　今年は小品を４本投下いたしました。 次はどれを出そう、と考えた時、ふと気づいたのでございます。 景麒、浩瀚、陽子、祥瓊と書いたな〜と。そうです、 今のところ同じ視点がないのでございます！　 ちょっと躊躇した挙句、延麒六太のご登場と相成りました。 いつまで続けられるでしょう……（早々に敗北宣言に至るやもしれません／苦笑）。
　先日、北の国では纏った雨が降りました。 雨が降るのは春だから。桜が待ち遠しいです。

2011.04.20.　速世未生　記

あたたかな雨　ネムさま

　桜は着実に北上しているようですね。
　春の朝、雨の音を聞くとそのまま眠くなるような、気持ち好さがありますが、 長い冬を越してきた人々には一際やさしく目にも心にも響くのでしょう。
　行動派の王様も、たまには遠くからもの思うのも悪くないと思っているのでしょうか。 でも溜まった仕事を片付けた後は隣国への大型台風になって行くんでしょうね（笑）
　さて、台風編も楽しみにしています（^^v)

延にも春が　瑠璃さま

やってきたようですね。
　きっと尚隆は、春に通じる気配すべてに陽子さんを思い浮かべるのではと思いました。 春のお出かけのためにはまずは仕事を片付けませんとね(笑)。頑張れー、王様。

雨でわかるんですね 　饒筆さま

　そっかあ、北国は雨で春を感じるんですね〜。
　春雨を眺めている、延王君の漢前な横顔を想像してワクワクしました。 六太クンもお利口さんなイイ子だなあ。 （私が書くとロクでもない人たちになるので・・・T_T）
　雨と同じ、しっとりした穏やかな光景が素晴らしいです。 「花見」編が読みたいです〜♪

ご感想御礼　未生（管理人）

　気象協会が昨日発表した第９回開花予想によりますと、 桜前線が津軽海峡を渡るのは４／３０だそうでございます。 あと１０日足らずでございます。 さてさて管理人近辺の桜はいつ花開くでしょうか。 楽しみに待ちたいと思います。

　拙作にご感想をありがとうございます。

ネムさん＞
　雪が音を消し去る冬の朝と違い、春の雨音は心地よい眠りを誘います…… そう、春雨の朝は寝坊注意(笑)。
　はい、気儘なかの方も春には万端に準備を整えての出陣となるでしょう。 取り合えず金波宮の迷惑は省みないと思います(笑)。

瑠璃さん＞
　花見と言いつつ華見を楽しむかの方も春を待ち侘びております。 温かなエールをありがとうございました（爆）。

饒筆さん＞
　そうです、雨が降ると春なんですよ〜。 とかいいつつ、実家の母は昨日「先週除雪車が出動した」との積雪報告をよこしました。 ＧＷにどれほど残雪があるか楽しみでございます（違）。
　男前な尚隆を想像してくださってありがとうございます。 そして拙宅の六太はなかなかの苦労人でございます。 名もない側近さんはいつももっと苦労しているでしょうが(笑)。

　尚隆の春の大嵐編、題名は決まっておりますが一文字も書いておりません。 小品ばかり書いていたら、長文が書けなくなっていて困惑しております(苦笑)。 なんとか纏まった時間を捻り出して頑張ってみようと思います。

仕事中なので慌てながら・・・　griffonさま

　ほんの数日前、僕の住む四国で雪が降り、チェーン規制が出ている地域がありました。 ほんの一山も超えないトコなんですけどねぇ。 市内の染井吉野は、ほぼ葉桜。八重も・・・と言うこの時期に(^_^;)
　なんだかおかしな春です。今年は

「雨」降っていたんです　空さま

　関東でも冷たい雨が降りました。 もう桜もソメイヨシノは葉桜が盛りだというのにです。 しかし、慶に行く前に仕事をしようと思う尚隆さんに、「愛」を感じます。 北国の春、待ち遠しいですね！

うむむ　由旬さま

　「嵐」は雁でパワーをためているようですね。 尚隆が春を待ちわびている様子が伝わってきます。 静かに雨を見つめているけれど、心はざわめいている。 それが雨の音と重なるかのようです。

御礼 　未生（管理人）

griffonさん＞
　わあ、四国でも雪ですか！　八重桜さえ葉桜という時季にそれは凄い。
　本日のラジオの交通情報によりますと、 地元の３つの峠で雪がちらついているそうでございます。 路面は勿論凍結注意！　 でも、あちらは桜の開花予想日も５／１０以降ですからね(笑)。

空さん＞
　雨なんですよ〜。さすがに平地ではもう雪は降らない、と思いたいです〜。
　お仕事中のかの方に「愛」を感じてくださってありがとうございます〜。 冬が長いからこそ北国の春は嬉しいのでございます。

由旬さん＞
　そうですね、退屈な仕事をしながら悪戯事を考えているのでしょうね〜かの方は(笑)。