「投稿作品集」 「12桜祭」

舞 -鈴装着バージョン griffonさま

2012/04/23(Mon) 06:58 No.727
 「足首に鈴」と言うのを伺って・・・ 目を凝らしてイラストを見ると確かに(^_^;)
 申し訳ないことです<(_ _)>  ディテールを見落としておりました。と言うわけで、 鈴装着バージョンをUPしてみました。 無音に剣が空を斬る音より、鈴の音がするほうがより幽玄と言うか・・・ 継ぎ足しですからそこまでは書けませんでした(^_^;)すいません<(_ _)>

 #683 大葉鉄男様作 「花舞」
 #652 饒筆様作   「祝祭」
 への連鎖妄想

舞-鈴装着バージョン-

griffonさま
2012/04/23(Mon) 06:59 No.728
 満月が煌々と照らす桜林。先ほどまでの宴とは、打って変わり静寂さだけに包まれていた。

 ――人の気配の失せた広大な桜林とは、こうも不気味で美しいのか。尚隆は両手を腰にやり、同じところに立ったまま、ゆっくりと何度も身躯ごと巡らせ、月下の桜林を眺めていた。不思議な事に一周巡って元々正面にあったはずの桜に正対したはずなだが、一周前とは印象が違う。初めは何ぞの呪でもかかっているかとも思ったが、その気配はない。在るのは長く王である者にしか判らないと勝手に尚隆が思っている強い念。直接間接を問わず自らが殺めた命。王であるが故に背負うべき死者達の想い。王のために。自分の信じる正義のために。家族のために。果たせた想いも果たせぬ想いも。

「未だ少し、強すぎるか」
 尚隆は空間の揺らぎとして可視出来るほどの念に、船酔いのような気持ち悪さを感じていた。

 尚隆はふと、遠くから幽かに鈴の音がしたような気がした。鈴の音を求めるように歩を進めた。人の気配の無い桜林に幽かに響く鈴の音。
 ――人に在らざる者が迷うて出たか。戯言半分に歩んで行くと、意外や鈴の音は僅かずつではあるがはっきりと聞こえてくるようになった。宴壇のあった場所からのんびりと歩いて半刻ほど、尚隆は一本の桜の下で止まった。

 尚隆の視線の先には、月光に照らし出され、晴天に浮かぶ雲のように白く輝く桜の花々があった。その方向から、今ははっきりと響く鈴の音と共に、剣が空を斬る独特の鋭い音が、幽かに聞こえて来ていた。桜の雲の下には、上等の絹で仕立てられた軽そうないでたちの天女が舞っていた。片足を軸に回るたびに裾や袖が円を描き、足首に着けられた金属の鈴が月光を反射し、煌きながら残像を残して円を描く。意外な程の力強さで踏み込まれるたびに、鈴が鳴り、細かな脚捌きにつれて細かく響く。胸元と腕に巻かれた玉の飾りが、月光を吸い込みそして妖しく放つ。重力に逆らうかのように浮いたかと思うと、地面に吸い込まれるように身体を伏せつつ舞う。結いあげられた紅い髪が解れるのもそのままに、尚隆も見たことの無い套路を描いて舞う。手首を返す度に、剣先が空を斬る。空を斬るたびに天女の廻りの空間にある澱みが晴れていくような、剣の煌きの美しさに尚隆は動けずにいた。

 どのくらい桜の木の下に立っていただろうか。突然鈴の音が停まった。天女は崩れるように両膝をつき、剣先を地面にたてるとその柄を支えに背中を激しく波打たせる。額から汗が滴り落ち、地面に吸い込まれる。

 ――なるほど。こう言う形の社稷と言うのもあるのか
 桜林に立った時に感じた、船酔いのような空間の揺らぎの気持ち悪さが、今は感じられない。

 声をかけようかと開きかけた口唇を硬く結びなおし、尚隆は天女に背を向けた。身躯を少し屈め、腰につけた刀の鍔を切る。頭上で鋭く回して鞘に戻した。屈めていた身躯を伸ばし、柄を握っていた右手を胸の前に翳した。

 翳した右の手のひらに桜の小枝が一本、落ちてきた。先に一つだけ可憐な紅色の鞠のような花を付けて。その枝を銜えた尚隆は、もと来た道をゆっくりと戻って行った。

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