「管理人作品」 「16桜祭」

望月頃@管理人作品第6弾

2016/05/17(Tue) 00:39 No.632
 皆さま、こんばんは。いつも祭にご投稿及びレス、拍手をありがとうございます。

 本日の北の国、最低気温は9.8℃、最高気温は15.0℃でございました。 桜が散ったのにまだひとケタでございますよ!
 昨日から強風が続いておりまして、最大瞬間風速は29.1m、 またも倒木で道路が塞がれる騒ぎがございました。 そろそろ落ち着いていただきたいものでございます。
 また、今夜関東にて強い地震があったようでございますね。 皆さま大丈夫でしたでしょうか。 関東民は地震慣れしてらっしゃる方が多いようですが……。

 さて、ラストスパート中の管理人、シリアス尚陽小品を仕上げました。 よろしければご覧くださいませ。

※ 管理人の作品は全て尚陽前提でございます。

望月頃

2016/05/17(Tue) 00:41 No.633
 宮の主の堂室へと向かっていた尚隆は、白い光が射しこむ回廊でふと足を止めた。欠けたところのない月が皓々と輝いている。その光に照らされた、妖艶な花。興を覚えた尚隆は、ゆっくりと庭院へと続く階を降りた。

 薄紅の桜が、夜闇に白く浮かび上がる。風に揺れる枝が手招きをしているよう。尚隆は微笑し、盛りを過ぎてなお咲き誇る桜花に見入った。
 桜の根元に腰を下ろし、持参の酒瓶を傾ける。見上げると、満月はその惜しみない光で花を彩っていた。

 美しい。

 心からそう思う。そういえば、夜桜見物はほとんどしたことがない。夜はいつも、鮮やかな緋色の桜に見入っていたのだから。無論、今宵もそのつもりだった。それなのに。

 微風が吹く度にはらはらと花びらが舞う。それはまるで桜花が行くなと引き留める涙のようだ。そう思い、尚隆は苦笑する。今夜の己はずいぶん感傷的だ。それは何故か。己に問うまでもない。

「願わくは花の下にて春死なん その如月の望月の頃」

 古の歌を口ずさむ。いつか、桜と共に逝こう。この歌のように。桜のように潔く散ろう。舞い降る花びらに手を伸ばしたそのとき、背後に気配がした。

 振り返る尚隆に向かい、ゆっくりと階を降りて近づいてくる。静謐な夜に紛れるよう、密やかに歩いてくる。麗しき緋桜の降臨に、尚隆は唇を緩めた。
 宮の主は一度立ち止まった。望月と桜花と尚隆と、順に視線を移し、再び歩き出す。尚隆は黙して伴侶を見守った。

 尚隆の左に腰を下ろし、伴侶は淡い笑みを見せる。その翠の宝玉は潤んでいた。瞬きをする度に、美しい雫が零れる。いつもならば、抱き寄せて己の唇でその涙を拭う。しかし、尚隆はただ伴侶を見つめ返すことしかできなかった。

 いつか、桜のように潔く散りたい。

 そう告げたことがあった。自身も女王である伴侶は、そのときは笑って見送る、と笑んで瞳に涙を滲ませた。別れを受け入れる笑みと惜しむ涙は、神々しいまでに美しかった。あのときも、尚隆は見つめることしかできなかったのだ。やがて。
 伴侶は眼を閉じ、尚隆の肩に頭を凭せ掛ける。あの歌が聞こえなかったはずはない。それでも、お前は何も訊かぬのだな。そう思い、尚隆は黙してその細い肩をそっと抱いた。桜花は音もなく花びらを散らす。月光に照らされた花弁は雪華のようだった。しかし。
 月と桜の美しさよりも、左の温もりが気になっていた。冷えた身と心を温めていく、伴侶の華奢な身体。尚隆は声を潜めて笑った。伴侶が顔を上げて不思議そうに見つめてくる。その瞳はもう潤んではいなかった。

「――たまには夜桜もよいものだ。だが」
 やはり緋桜の方が美しい。

 そう耳朶に囁くと、伴侶は怪訝な貌をして小首を傾げる。尚隆はそんな伴侶に笑みを送って立ち上がった。そのまま伴侶の細腰を抱いて歩き出す。望月と夜桜が尚隆を引き留めることはもうなかった。

2016.05.16.

後書き

2016/05/17(Tue) 00:47 No.634
 末声間近なかの方、なんとか留まってくださいました。ほっと安堵でございます。
 こちらも書き始めは4月の頭、かの方の口が重く、陽子主上の視点でも書いていたのですが、 陽子主上も語り止めてしまい、途方に暮れておりました。 なんとか仕上げることができました。

 さてさて、間に合うかな〜と呟かれてる方も何名かいらっしゃいますね。 間に合わせてくださいませ! 管理人とともに足掻きましょう(笑)。 あなたの素敵な桜、最後までお待ち申し上げております。

2016.05.17. 速世未生 記

惹かれるのは ネムさま

2016/05/17(Tue) 22:34 No.635
 最近、強風や竜巻や、日本ではご縁のなかったものが増えましたね。 できれば穏やかなものが増えて欲しいのですが。
 地震見舞いありがとうございます。 実は丁度お風呂で髪を洗っている最中だったので逃げようがなく(笑) 「きっと収まる、収まる」と念じて風呂に入っていました。 これが“慣れ”なんでしょうか?

 「花の下にて春死なん」  この歌ほど日本人の死生観に訴える歌は無いのでは、と思えてしまいます。 死は綺麗ごとではないと思ってもそうなら、正に生死をかい潜ってきた尚隆なら、 より惹かれてしまうかもしれない。 そんな彼を引き留められるのは、ただ静かに受け止める陽子だからなのでしょうね。
 舞い落ちる花びらの下、 一瞬と悠久が同時に存在するような切なくやさしい情景を見せて頂きました。

今はまだ行かないで  饒筆さま

2016/05/18(Wed) 21:22 No.655
 そう遠くない未来に永遠に去ってしまう(予感がヒシヒシする)人の傍に、 物言わず佇む陽子主上……ああ切ないお労しい(泣)
 あまりに美しいもの、完璧なものって魔を呼びますよね…… 危うく揺れる尚隆主上の心中が少々恐ろしくもありました。
 今はまだ行かないで〜。

ご感想御礼 未生(管理人)

2016/05/20(Fri) 00:16 No.679
 皆さま、拙作にご感想をありがとうございました。

ネムさん>
 うわ〜、お風呂中の地震は嫌ですね! 収まってくれてよかったです。
 強風見舞いありがとうございました。 今回は樹自体が倒れたわけでなく、5mだかの枝が落下したそうでございます。ひゃー。
 桜のように潔く、そう思うと西行のこの歌が浮かびます。 この頃のかの方は陽子主上のためだけに残っているのかも…… などと妄想して更に切なくなってしまいました。
 含蓄と趣のあるお言葉をありがとうございました。一瞬と悠久、沁みました。

饒筆さん>
 ――(泣)。行かないで、逝かないで。 秘められた陽子主上の声が聞こえてしまうようなご感想をありがとうございます (わーん/泣)。

ほっ… 桜蓮さま

2016/05/21(Sat) 20:55 No.708
 夜桜に吸い寄せられていた尚隆が、陽子さんの温もりに引き戻されて、 ひとまずほっといたしました…。
 彼が抱える終焉への渇望に気付かぬわけではないでしょうに、何も言わず、 ただ受け止めようとしている陽子さんが健気で切ないです。 どうか、『その日』がなるべく先でありますようにと願わずにはおれません(泣)

ご感想御礼 未生(管理人)

2016/05/23(Mon) 21:22 No.797
桜蓮さん>
 実はこの小品に詰まっている時に桜蓮さんの陽子主上を拝見して筆が進みました。 微笑みながら涙を流す貌が正にツボ! 萌えをありがとうございました。
 己も王であるが故に引き留めることはできないと感じているだろう陽子主上、 私も書くのが辛い一作でございました(でも書いてしまう/泣)。

願わくは 篝さま

2016/05/23(Mon) 21:52 No.803
 何十年、何百年この地に生きようとも、ふとした時に出てくる言葉はあちらのもので、 やはり尚隆の心の故郷は蓬莱なのだと思うと…(泣)
 陽子主上にはまだまだ尚隆の枷になって頂きとうございます…。

ご感想御礼 未生(管理人)

2016/05/23(Mon) 23:02 No.824
篝さん>
 三つ子の魂百まで、とも申します。 己が形成された場所というものは案外根底にあって抜けきらないものかもしれないとも思います。 私も未だ故郷の田舎町が基準だったりいたします(苦笑)。
 ほんとうに、陽子主上にはまだかの方を引き留めていてほしいと私も思います (でも書いてしまう/泣)。
背景画像「MIX-B」さま
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