「投稿作品集」 「16桜祭」

祝! 「桜祭」  つくしさま

2016/03/21(Mon) 10:40 No.39
 「桜祭」開催を心待ちにしておりました\(^o^)/
 今年もお邪魔させて頂きま〜す
 『開花宣言一番乗り』福岡在住の つくし でございます

 出来ればソメイヨシノの画像をと思い、近所を探してみましたが 2輪ほど開花した木を見つけられただけで・・・ 代わりに小品を書き綴ってみました

桜 守

つくしさま
2016/03/21(Mon) 10:40 No.39
「おい、坊主! 何をしている」

突然声をかけられた少年はギョッとして振り返った。
「な、なにって・・・ 何もしてねえよ、おいら・・・」
「今、桜の枝を折ろうとしていたであろう?」
「・・・」少年は拳をギュッと握って俯いた。
少年を呼び止めた偉丈夫は、彼が折ろうとしていた枝を撫でながら穏やかな声音で言葉を続けた。
「ようやく咲き始めたばかりの若木だ。折り取っては可哀想ではないか?」

「おいらだって父ちゃんが植えた桜を虐めたくはないけど、妹に花を見せてやりたかったんだ・・・」まっすぐに尚隆の目を見返して答えた少年の瞳はとても澄んでいた。
「折らずとも、妹はここに来て花を見ることは出来んのか?」
「うん、先週転んで足をくじいちゃったんだけど、なかなか腫れがひかなくて満足に歩けなくなっちゃったんだ。あいつ、花が咲くのをとても楽しみにしていたから・・・」
「で、枝を折って持って行ってやろうと?」
黙って頷く少年の頭をくしゃくしゃっと撫でた尚隆は、騎獣の背に括り付けた荷から小刀を取り出し上空へ。桜木の上から花付きが良い見頃の枝を見つけ、騎獣を寄せた。
「許せよ、見せてやりたい者がいるのでな」と一声詫びると、小刀で丁寧に枝を切った。
「さぁ、お前も乗れ。送って行ってやる」と地上であっけに取られて見上げていた少年を引っ張り上げ、自身の前に座らせた。
「わぁ〜! おいら騎獣に乗るの初めてだ!」
はしゃぐ少年に桜の枝を渡し、
「さぁ、道案内を頼む。すう虞は速いからな、しっかり掴まっておれ」

瞬く間に少年が指さす山際の小さな小屋に着いた。
「陽花! 父ちゃんの桜を持ってきたぞ!」少年が桜を手に小屋に飛び込んだ。
「わぁ〜! 綺麗に咲いてる! 」中から可愛い声が響く。
小屋から中年の女性が出て来て、尚隆に頭を下げる。
「甥の苞樹が何かご迷惑をおかけ致しましたでしょうか?」
「いや、妹思いの甥御だな。桜堤で会って送って来ただけだ。ところで妹の容体はどうなのだ? 医者には見せておらんのか?」
「この辺りに医者はおりません。来週、兄が帰る予定ですので、それから光州の城下へ連れて行こうと思っております」
「それでは遅かろう。俺が知り合いの医者を此処に寄こそう、明日には来られると思う」
「しかし、兄が戻ります迄診察代が・・・」
「そんなこと案じずとも好い。妹思いのあいつの出世払いにしておくからな!」
楽しそうに笑って、偉丈夫は小屋の中を覗いて少年に声をかける。
「おい、坊主。約束を果たす日を楽しみにしているぞ!」
そう言うと、あっけに取られる叔母と妹を置き去りに、さっさと騎獣で飛び去って行った。
「苞樹、あのお方と何か約束したのかい?」
「約束? ただ、おいらは父ちゃんみたいに立派な植木職人になるんだって言ったけど・・・」

堤を堅牢な物にするため、桜の植樹を推し進めてきた尚隆。
苞樹の父は桜に詳しかったため、雁国内をあちこち回って仕事をしているらしい。
母は数年前に流行り病で亡くなり、父の妹の家で幼い妹と父の帰りを待っているのだと、
すう虞の背で話を聞いた。
「おいらも父ちゃんみたいになって、王様がお好きな桜を国中に植えるんだ!」
少年が目をキラキラさせながら語るのを尚隆は微笑みながら聞いていた。


すっかり古木となった桜堤を歩きながら、散り際の桜を楽しんでいた尚隆は、一人の老人が古木の間に植えられた若木の手入れをしているのを見つけた。
「老師殿、このあたりの木もそろそろ寿命なのか?」
「旅のお方ですか? このあたりの木は私が植えて、そろそろ40年になります。この種類は寿命が50年程ですので、交代用の若木の植え付けを始めたところなのですよ」
「古木は貴方が植えた物なのか。立派に育って、皆を長い間楽しませてくれたな。世話も大変だったであろう」
「幸い、息子も桜好きで、随分と手伝ってくれましてな。」
「ほう・・・」尚隆が微笑む。

「お〜い、親父! そろそろ次の堤に行くぞ!」
川下側から荷車を引いた、屈強そうな男が近づいて来た。
荷台には桜の若木と一緒に小さな男の子も乗っている。

「老師殿、邪魔をしたな。子息殿と三代目の桜守(さくらもり)に頑張ってくれと伝えてくれ!」
そういうとその偉丈夫は騎獣に跨るとあっという間に蒼穹に駆け上がって行った。

「親父、今の人は?」
「旅のお方さ。桜がお好きなようだなぁ」
苞樹は既に小さくなった騎獣の後ろ姿を見つめた。
「まさかな・・・ 30年以上も前だ・・・」


☆ あの日、玄英宮に帰った尚隆から「無医村の調査と改善」をいきなり命じられた帷湍が また血圧を上げたというのは、言うまでもありません・・・とさ
                             

おしまい

後書き つくしさま

2016/03/21(Mon) 10:40 No.39
 漸く治水工事も全土に行き渡り、堤の補強のために桜の植樹を始めて10年位と言う設定です  桜って人の心を優しくしてくれるような気がします

 今年も皆様の素敵なお話をたくさん読ませて頂けるのを楽しみにしております <m(__)m>
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