「宝重庫」 「玄関」

「 逢 瀬 」

絵 ・ 文茶さま

逢瀬

ある日の逢瀬

「――触れてもよいか」

 いきなり問われ、陽子は動きを止める。ゆっくりと首を巡らせると、伴侶は微妙な貌をしていた。陽子は少し熱くなった頬を意識しながらも、小さく首を傾げる。いつもはこんなことを訊くひとではないのに。
 視線で問うても気まずげに顔を逸らされ、陽子は少し考える。返事を、したほうがよいのかもしれない。

「――いい、ですよ」

 緊張気味に答えると、伴侶は眼許を緩めて立ち上がった。ゆっくり歩み寄ってくる伴侶をじっと見つめる。陽子の目の前で足を止め、伴侶は苦笑した。

「――妖魔に怯える子供のようだな」

 そんなつもりはないのに。だって、改めて訊かれるなんて。

 陽子の心の声が聞こえたかのように、伴侶は優しい笑みを見せる。陽子は安堵の息をつき、己も笑みを返した。

「――唇は、だめですよ」

 まだ、明るいから。そう続けると、少しだけ顔を蹙めた伴侶の唇が、そっと額に触れたのだった。

2018.05.23.
 文茶さんが「微糖を描いているけれど表に出せない」と呟いておられたので にっこり笑って無心いたしました。 GWだ祭ラストスパートだとかで大変遅くなりましたが、お披露目させていただきます。 折しも本日「キスの日」でございます!
 ちょっと頑張って挿し文を書いてみましたが、でこチュウのシチュが浮かびませんでした。 なんだこれかゆい! みたいな出来と相成りましたがどうぞご寛恕くださいませ……。

 文茶さん、萌える尚陽素敵絵をありがとうございました〜。
 
(無断転載厳禁。勝手にお持ち帰らないでくださいね!)

2018.05.23. 速世未生 記
背景画像「翠琅庵」さま
「宝重庫」 「玄関」