「宝重庫」 「玄関」

「 政務中 」

絵 ・ 文茶さま

政務中

政務中

「ほらほら、手が止まってますよ」

 茶を淹れる手許をじっと見つめていると、麗しき隣国の女王はじろりと睨んで窘めてきた。延王尚隆は笑みを湛えて軽口を返す。
「そう言われてもな」
 傍にお前がいれば気になるのは当たり前だろう、と続けると、女王は大きく嘆息した。書卓に眼を移し、堆く積まれた書簡を眺める。国主の残務量を再確認した女王は、眉間に皺を寄せて語気鋭く言い放った。

「私が見えなければよいのですね」

 つかつかと近づいた女王は尚隆の後ろに腕を組んで仁王立ちする。その一部始終を見届けた尚隆はまたも叱責を喰らった。

「ほら、前を向いて」

 伴侶でもある女王の冷たい言葉を聞いて、今度は尚隆が大きく溜息をついた。
「――厳しくされるばかりではな」
 とうとう筆を置いてしまった尚隆に、女王は苦笑を漏らす。仕方ないですね、と呟いて、女王は細い手を伸ばして尚隆の顔を前に向かせた。そのまま背中に覆いかぶさり、筆を取って尚隆の右手に握らせる。

「鞭ばかりではなんですから飴も差し上げましょう」

 笑い含みの声とともに、女王は華奢な腕を尚隆の首に絡める。尚隆の右肩に顎を載せた女王は、楽しげに続ける。

「さあ、頑張ってお仕事片付けてくださいね」

 延王尚隆は苦笑しつつも書簡を捌く速度を上げる。そう、その調子、と後ろから揶揄うような応援の声が響いた。肩に触れる温もりが心地よい。しかし、背中に触れるはずのものを椅子の背が遮っていることに不満を覚えた。しかも、だ。
 そのうちに、首に絡まる腕から力が抜けて、静かな寝息が聞こえてきた。眉根を寄せた尚隆は、大きく嘆息する。

「――これはやはり飴ではなく鞭だな」

 すやすやと眠る無邪気な女王がその嘆きに応えることはなかったのだった。

2018.02.27.
 文茶さんからいただいた拍手コメントに萌えて御題其の二百四十七「求婚の時」の 尚隆視点である其の二百四十八「昏闇と光」を書き流し、描きかけで止まっているという 尚陽絵の提出を促しましたところ、素敵な尚陽絵をいただきました!
 「じゃれついているうちに電池切れになった陽子さんと、 真剣に政務中ですが内心は嬉しい尚隆さん(笑)」でございます。いぇい!  更に萌えてついつい拙い挿し文をつけてしまいました(笑)。

 文茶さん、素敵な尚陽と萌えをありがとうございました!
 
(無断転載厳禁。勝手にお持ち帰らないでくださいね!)

2018.02.28. 速世未生 記
背景画像「翠琅庵」さま
「宝重庫」 「玄関」