「 春の訪れ 」
絵 ・ 晋青緑さま
春の訪れ
浩瀚が女王の執務室を訪れると、主は眉間に皺を刻み、難しい顔をしていた。
「主上、どうかなさいましたか?」
「──浩瀚か。うん、ちょっとね……」
主は案件の書かれた書面を睨みながら小さく溜息をついた。浩瀚は微笑する。そして、ゆっくりと執務室の窓を開け放った。主は驚いたように浩瀚を見つめた。
堂室を吹き抜ける風は柔らかい。そして、微かに花の匂いを含んでいた。主は見開いていた目を細め、表情を緩めた。
「──ああ、いつの間にか、春になっていたんだな」
浩瀚は笑みを浮かべて頷いた。いつも生真面目な女王は、季節の移り変わりにも頓着しない。しかし、桜が開く春になると、どんな花よりも鮮やかな笑みを見せる。
主は書面を置いて立ち上がった。そして窓の外を見やり、花の如く匂やかに笑む。
「桜が、芽吹いているな」
「はい、直に花見の季節になりますよ」
浩瀚が続けると、主は肩の力を抜いて頷いた。そして、和らいだ顔で仕事を片付け始めた。麗しき女王の眉間の皺を消すことに成功し、浩瀚は安堵の笑みを浮かべたのだった。
2008.04.01.
晋さんが拙作に素敵な挿絵を描いてくださいました〜〜!
勿論すぐにいただいてまいりました。
桜を見つめるほのぼの陽子主上と浩瀚……。ぐっときてしまいました。
そして、絵師さまは、私が想像しがたい建物や窓を描いてくださるのです!
世界が広がってまいりますね〜。
晋さん、眼福でございました。ほんとうにありがとうございました!
(無断転載厳禁。勝手にお持ち帰らないでくださいね!)
2008.06.05. 速世未生 記
背景画像「翠琅庵」さま