再会の時
「奏南国第二太子卓郎君利広にございます」
供王の御前に跪き、朗々と長い肩書を名乗る。許しを得て面を上げた利広は、驚愕した貌を見せる女王に満面の笑みを送った。
儀礼的な挨拶は恙なく終わった。慶賀の使節として恭州国を訪れている奏の太子利広は微笑する。供王珠晶は儀式をそつなくこなし、王の器を見せた。驚きながらも声も出さず、きちんと対応した少女王に、利広は内心拍手を送る。さすがはあの厳しい昇山の旅を乗り越えて麒麟に選ばれた神なる王だ、と。
祝宴の際、利広は珠晶に呼び出され、側近くで対面した。再会を素直に喜びつつも驚かされたことを揶揄する様は相変わらずだ。しばらくは二人で再会を喜び合った。そして。
「会わせたい人がいるわ」
珠晶はそう言って悪戯っぽく笑う。その後、目立たない場所で引き合わされた人物は。
利広は軽く眼を瞠る。しかし、驚きは向こうの方が上だったらしい。何か言おうと開きかけた口を必死で抑えるその様が可笑しくて、利広は破顔する。それを見て深い溜息をついた男に、供王珠晶はゆったりと声をかけた。
「頑丘」
男は背筋を伸ばし、嫌そうに小さな女王を見下ろした。供王珠晶は男の抵抗など歯牙にもかけず、軽やかに笑みを見せて口を継いだ。
「奏南国からいらした慶賀の使節を紹介するわね。宗王の第二太子、卓郎君利広よ」
「やあ、頑丘、久しぶり。まさかここで再会するとは思わなかったよ」
利広は共に昇山の旅をしたかつての仲間に笑みを向けた。孤高の朱氏が供王に仕える身となっているとは。
「珠晶をびっくりさせようと思っていたのに、私も驚かされた」
利広は笑みを湛え、珠晶に視線を移す。少女王は満足そうに胸を張り、利広と頑丘を見比べた。頑丘は深い深い溜息をついた。
「――俺には俺の事情があるんだ」
ぼそぼそとした言い訳は、不貞腐れていながらも新王への思いやりに満ちている。頑丘は自分で気づいているのだろうか。そう思うと、利広は笑いを堪えられなかった。それは珠晶も同じらしい。楽しげに笑いを零している。頑丘はそんな二人を見比べながら、不本意そうに立っているのみだった。
2016.06.05.
(御題其の二百二十五)