「宝重庫」 「玄関」

「 喋々喃々 」

絵 ・ 由都里さま

喋々喃々

喋々喃々

 ふたりで空を眺めていた。折しも七夕の夜、満天の星が輝いている。無論あちらとは違う星々だが、星明りに照らされた伴侶の顔は、穏やかな笑みを浮かべていた。
 国主の私室の露台にひっそりと立てられていた笹も今はない。いつからか、七夕を皆で祝うようになったからだ。沢山の短冊で飾られた笹は、王の執務室から見下ろせる庭院で重そうに揺れている。それは、皆の願い の重みなのだろう。

 そういえば、伴侶はとんと短冊に横文字を認めなくなった。誰も読めぬ蓬莱の異国の文字に、伴侶は秘めた願いを託していたのだが。何故かと問う尚隆に、伴侶は匂やかな笑みを見せる。必要なくなったからだ、と。それから、頬をほんのりと朱に染めて続けた。

「毎年来てくれてありがとう」

 尚隆は破顔した。笑われるとは思っていなかったのか、伴侶は拗ねた顔を見せる。少し尖った朱唇を啄んで、尚隆はそっと伴侶の耳朶に囁いた。

「彦星は織姫に会いに来るものだろう」

 伴侶はぷいと顔を逸らし、再び空を見上げた。輝ける星々が伴侶を淡く照らす。両手を空に差し伸べた伴侶は、神々しいまでに美しかった。尚隆は思わず伴侶の手を掴む。そうしなければ天女のように空へ昇っていきそうだった。驚く伴侶をそのまま抱き上げて、尚隆は大股で臥室へと向かう。伴侶は無論抗議した。

尚隆(なおたか)!」
「星はもう充分見ただろう」

 尚隆は澄まし顔でそう答えた。今度は俺を見ろ、と続けて伴侶を抱えたまま牀に腰を下ろす。伴侶は苦笑を浮かべて尚隆を見上げた。

「――願いを叶えてくれた星にお礼を言っていただけなのに」

 あなたはせっかちだ、と言って伴侶は細い指を尚隆の顎に伸ばす。その苦情には答えずに、尚隆はなおも言い募ろうとする朱唇を甘く封じた。

2016.07.14.
 先日素敵な尚隆を恵んでくださった由都里さんから今度は誕生プレゼントをいただきました!  しかも、なんと初描きだという尚陽絵でございます。ひゃあ!
 絶滅危惧種に指定される(?/笑)尚陽ですので、ほんと嬉しゅうございます。 思わず連鎖妄想に走ってしまいました。 いただいた日が七夕でしたので、安直に七夕の小話でございます。 優しく睦まじい雰囲気のおふたりのイメージを損ねていなければよいのですが……(どきどき)。
 由都里さん、素敵な尚陽絵と大いなる萌えをありがとうございました!  オフの事情で御礼が遅くなってしまったことをお詫び申し上げます。

(無断転載厳禁。勝手にお持ち帰らないでくださいね!)

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2016.07.15. 速世未生 記
背景画像「翠琅庵」さま
「宝重庫」 「玄関」