其の二「再生」@管理人作品第11弾
2010/10/14(Thu) 17:14 No.134
滑り込みセーフ!
ほんとは朝に仕上げたかったのですが、さすがに無理でございました。
落ちる前に出来上がってほっといたしております。
ぽつりぽつりといただく拍手や気持玉にも励まされました。
ご反応をいただけると張合いも違います。皆さま、どうもありがとうございます!
さてさて、それでは御題の八作目をご覧くださいませ。
- 登場人物 六太・尚隆
- 作品傾向 シリアス・ほのぼの
- 文字数 1408文字
「十二国記で12題」其の二
再 生
2010/10/14(Thu) 17:17 No.135
子供は木に生るのだ。そう教えた時、尚隆は呆れたようにひとつ溜息をついた。あちらとこちらは随分違うのだな、と呟いて苦笑したその顔は六太にとって印象的であった。
六太は胎果ではあったが、四歳でこちらに戻っている。だから、あちらでは子供は女が産むものなのだ、お前もあちらでは母の腹から産まれたのだ、などと聞かされてもぴんとこなかった。首を捻って見つめると、尚隆はただただ苦笑して、六太の頭にその大きな手を乗せたのだった。
そんな小さな出来事は、日々の暮らしに呑まれて忘れられていった。国は一面の焦土、どうすれば復興を果たせるのかなど、六太には皆目見当がつかなかった。けれど。
そんなこと、と尚隆は笑った。耕した土地が己のものになるのならば民は頑張るだろう、と。土地は国のもの、数え二十で給田を受けるものだ、と官吏が必死に訴えてもどこ吹く風と聞き流し、尚隆は四分一令という初勅を発布した。それは公地を四畝開墾した者にはそのうちの一畝を与える、というものであった。
王が起って天災が減った雁に、他国へ逃れていた民人が続々と戻ってきた。王の初勅を聞いて、彼らは張り切って荒地を耕した。そうして掘れば瓦礫や白骨が出るばかりの大地を緑に変えていった。
そうして年月は流れていった。無軌道な宮の主はいつもの如く姿を晦まし、官は金切り声を上げていた。飛び火を恐れた六太は己もこっそりと王宮を抜け出す。そうしてあてもなく空を彷徨った。
季節は麦が金色の池を作る秋。雁はここまで回復した。この池を作れるだけの人々が、今この国にはいるのだ。そう思うと泣けるほど嬉しかった。六太は目に眩しい黄金の池を感慨深く見下ろす。初めは水溜りのように小さな畑だった。この点在する池が繋がり、いつか波打つ黄金の海になるだろう。
国の復興を満喫し、六太は関弓に戻る。そこでふと王気を感じた。どこぞの妓楼にでもいるのだろうか。いつもなら気にせず帰るのだが、今日は尚隆がどこにいるのか確かめたい気分だ。六太はそのまま王気を辿って尚隆を探した。
尚隆は繁華街にも妓楼にもいなかった。全く以て意外な所で発見し、本人を目の前にして尚、六太は信じられないものを見るように瞠目した。
「──何の冗談だよ」
六太は主の大きな背に呆れ声をかける。黄色い実を幾つもつける白い樹を見つめていた尚隆は、突然現れた六太に驚くこともなく応えを返した。
「一度見てみたかったのだ」
そう言って笑うと、尚隆は卵果が生っている里木を再び見つめた。そういえば、子供が木に生る、と聞いて、尚隆は随分驚いていた、と思い出す。実際に見てみたいと思っても不思議はない。六太は尚隆に歩み寄り、並んで里木を見上げた。
「子供は、両親が望まなければ授からないのだろう? ようやく子を望める世になったということだな」
初めて見た里木は燻し銀のようで何も生ってなかったからな、と続け、尚隆は満足そうに破顔する。ああ、と六太もまた感慨深く思い出した。尚隆を連れて雁に戻ったあのとき、何も残っていない里に、里木だけがぽつんと立っていたのだ。
──こいつは国に民が戻ってくるだけでは満足できなかったんだな。
六太は主を見上げてくすりと笑う。六太が愛でる金の池は、この実に入っている者が大きくなる頃には海になっているだろうか。新たな民人が産まれ育ってこそ、雁は再生を遂げるのだろう。国の希望である卵果を飽かず眺める主を、六太は笑みを湛えて見つめたのだった。
2010.10.14.
後書き
2010/10/14(Thu) 17:24 No.136
「国」と並行して書いていた小品でございます。
こちらも最初は尚隆視点でございました。
けれど、上手く纏まらず、視点を六太に変えてみました。
そうしたら、なんだか違うお話になりつつあって眩暈がいたしました。
途中で元に戻り、却って驚きました。書きたいものを書くってかなり難しいですね〜。
さて残り四つ、
誰の視点で書くかは決まっておりますが、なかなか場面が降りてまいりません。
後幾つ書けるかな……。明日一日頑張ります! それでは今日はこの辺で。
2010.10.14. 速世未生 記
ああ「再生」 空さま
2010/10/14(Thu) 21:18 No.137
焦土が緑豊かな土地になる。
本当に、気持がふっくらとしてきます。
ああ、よかった、生きてて良かった、そう思える時。良いお話ありがとうございます。
焦土と言えば、第二次世界大戦の原爆投下か大空襲か、とおもいますが、
空は三宅島の噴火を思い出します。
この前のでなくてもっと前、もう30年前かなあ。火山ガスがそれほどひどくなかったので、
噴火して1年ぐらいの時行ったことがあるのです。
一面真っ黒な溶岩の後。鉄筋コンクリートの学校の教室の中まで入り込んだ溶岩。
1年経ってもなお冷めやらぬ大地。
地上から50センチのところで50度Cありました。
一面焼け野原で何もないところ。きっとあんな感じなんでしょうね。
でも、たくましく住み続ける人たちが緑に変えていくんですね。そう思いました。
未生さまのおかげで昔のことを思い出しました。ちょっと幸せです。
ありがとうございました。
形になった希望 黎絃さま
2010/10/14(Thu) 21:58 No.139
三宅島はテレビの報道でしか見たことがありませんが、切ない気持ちだったのを思い出します。
小学生たちが学校の様子を確かめに行ってみたこともありましたね。
今おもえば尚隆が本当の意味でパァッと笑う場面って意外と貴重な気がします。
「風の海 迷宮の岸」以降の時期もそうですが「東の海神〜」でも登極してからは、
そう唯々あかるい顔は貴重だったと思いますし……。
子供の卵果を望む夫婦が現れて喜ぶ尚隆の良い顔が浮かびました。
里木の卵果(人間の子供用)って、いわば景気予測調査の家庭版ですね。
これが奏国だと利達あたりが念入りにチェックしてそうです。
雁だったら帷湍や朱衡でしょうか。
思わず「お疲れ様です、頑張りましたね〜」とねぎらってあげたくなる場面でした。
ありがとうございました。
一足先に ネムさま
2010/10/14(Thu) 22:24 No.142
望まなければ生まれてこない子供達―望むことが出来る世界とは幸せなことなんですね。
里木を仰ぎ見る尚隆と六太のツーショット、幸せな気分になれました。
明日は伺うことが出来ないので、一足先にお祭りの成功をお祝い申し上げます。
未生さま、お疲れ様! ありがとうございました。
皆さんにも、とても楽しかった、感謝しま〜す(\^0^/)
遅くなりました 未生(管理人)
2010/10/16(Sat) 22:29 No.177
レスが遅れて申し訳ございません。
レスを犠牲にして頑張った割にひとつ残してしまい、かなりおマヌケでございます
(しょぼん)。
空さん>
三宅島ですか〜。私は割と最近見た有珠山の噴火を思い出しました。
道路ががっくりと落ち込んでいたり、工場がほぼ全壊していたり、かなり悲惨でしたが、
何年か経ってから見ると、ちゃんと草が生えているんですよね〜。
雑草はほんとに逞しいです。
こちらこそ、ご感想をありがとうございました〜。
黎絃さん>
確かに尚隆は屈託なく笑う印象がないですね〜。
そういう意味では、国が立ち直っていく過程ではこんな風に明るく笑っていてほしい、
という私の願望が現れているかもしれません(苦笑)。
里木の卵果が景気予測調査家庭版とは言い得て妙で受けました!
ネムさん>
望まれなければ子供が産まれない、という事実は蓬莱から来た人間にとっては
かなりなカルチャーショックかと思います。
無論それには良いことばかりではないのでしょうが、
あの何もない状態を知っている尚隆にとっては、
里木に卵果が生るところを見るのは目標のひとつだったと思います。
今回もご参加ありがとうございました。どうぞまたいらしてくださいね〜。