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其の六「毅さ」@管理人作品第7弾

2010/09/24(Fri) 15:24 No.81
 つい3日前には夏日だったというのに、この寒さは何なのでしょう!  最低気温が8.7℃って極端過ぎやしませんか……(泣)。 ふと地元のアメダスを見てみると、6時の気温は3.8℃でございました。 山には雪が降ったと聞きましたが、麓に降ってもおかしくないです(苦笑)。
 中々さくさくと進められないのですが、なんとか6本目を書き上げました。 やっと半分ですね〜。やれやれ。
 それでは今回出番の多い祥瓊のお話をどうぞ。

「十二国記で12題」其の六

毅 さ

2010/09/24(Fri) 15:29 No.82
 柳の西端の街にて舎館を取った。明日はとうとう恭に入る。祥瓊はわななく身体を抱きしめた。胸に供王珠晶の侮蔑的な笑みが浮かんで消える。しかし──。

(王は自ら斃れるもの)

 その言葉の意味を、重みを、今の祥瓊は理解している。公主として、父王を諌めることができなかった己の罪をも。
 祥瓊は罪を悔いていた。罰を受けることによって償いたい。そして、堂々と、己を必要としてくれる人々の許へ帰りたい。けれど、もし、帰ることができなかったら。

(物を盗んで、それで罪人を殺す国なんてのは、芳だけだ)

 雁の大学で学ぶ楽俊がそう断じた。しかし、ただの盗みではない。祥瓊は王の御物に手をつけたのだ。取りようによっては王への造反と見做され、極刑に処されるかもしれない。それでも──。
 祥瓊は決然と顔を上げた。たとえ命を喪おうとも、犯した罪は購わなければならない。己を恥じることなく生を全うするために。

 国境を分ける門が見えてきた。我知らず身体が震える。それでも祥瓊は足を止めることなかった。旌券の提示を求める門衛に頭を下げ、祥瓊は姓名を告げた。

「──孫昭にございます」
 名のみを告げても分からないのだろう。門衛は怪訝な顔をする。祥瓊はそんな門衛たちの前で厳かに膝をついた。

「恐れ多くも供王の御物を盗んで逃げた罪人でございます。悔い改め、罪を購いにまいりました」

 地に頭を擦りつけて礼を取る。頭の上ではざわめきが渦巻いた。芳の元公主だ、という声が聞こえる。柳にまで捕縛の手を伸ばす供王が、自国で手を抜くはずもない。このまま捕えられることを承知の上、祥瓊は伏したまま動かなかった。

「──面を上げよ」
 やがて、重々しい声がした。祥瓊は顔を上げる。書面を持った官吏が祥瓊を見下ろしていた。
「元芳極国公主、孫昭。処罰を言い渡す」
 聞いて祥瓊は再び叩頭する。何を言われても動じることなく従おう。覚悟を決めて宣告を待つ。官吏は朗々と書面を読み上げた。

「国外追放、以後一切恭国への入国はまかりならず、恭国にあるを発見されれば、委細構わず叩き出す」

「え……」
「供王の勅命である。心せよ」
 祥瓊は思わず顔を上げる。が、事務的に言い捨てて官吏は踵を返した。思ってもみなかった幕切れに、祥瓊は呆然とする。坐りこんだまま、動かくことすらできなかった。

 国外追放。恭国への入国はまかりならず。

 その言葉の意味が胸に沁みわたるまでには幾分時間を要した。が、宣告の意図を理解して、祥瓊は涙を零した。極刑どころか、投獄すら免れた。供王は祥瓊が思っていた以上の温情を施してくれたのだ。

(あたくし、あなたが嫌いなの)

 にっこりと笑う少女王の顔が忘れられなかった。元公主の祥瓊を平伏させておきながら、声すらかけない着飾った女王を恨んだ。供王は九十年も国を守り続けているというのに。
 王でありながら諸官に軽んじられていた胎果の陽子。拓峰の乱にて、祥瓊は、王にすらできないことがある、と目の当たりにした。供王はその陽子よりも更に幼い風情だった。朝を纏めるのにどれだけ苦労したことだろう。父王を諌めようともせず、ただ遊び暮らしていた祥瓊をどれほど軽蔑していたことだろう。

 祥瓊は姿勢を正す。そうして、門の向こう側、恭国を統べる供王珠晶に心から頭を下げた。

「──ありがとうございます」

 嗚咽を堪え、口から出た言葉はただ一言。精一杯の謝礼であった。

2010.09.24.

後書き

2010/09/24(Fri) 15:39 No.83
 「風の万里〜」後、恭国へ謝罪に行く祥瓊を書いてみました。 以前何度か拍手で出したことがある代物でございます。
 この「毅さ」という言葉は原作では出てきてないように思いまして、 多少思い悩んだのですが、祥瓊には拓峰の乱以降罪を購う「毅さ」が備わったのだろう、 と妄想したのでした。

2010.09.24. 速世未生 記

夜は寒いかも ネムさま

2010/09/26(Sun) 21:23 No.84
 布団を出す暇がなく、昨夜は湯たんぽを急遽入れました。 暖房を入れるまでに後何日なんでしょう(苦笑)
 自分の罪、と言えないまでも過ちを認めるというのは結構難しいものです。 ニュースなどで「隠したりせず、さっさと謝ればいいのに」と他人の事を批判しても、 自分がその立場だったら本当に出来るのか、 そして自分のプライドを傷つけた人間を認めるのも難儀なものです。 だから最近では簡単に他人の弱さを批評できません。 でも、いつかは乗り越えなければならないことであるのも確かでしょう。
 もう一度襟を正す、そんな気持ちにさせられるお話です。

秋ですね〜 未生(管理人)

2010/09/27(Mon) 11:54 No.85
 ネムさん、いらっしゃいませ〜。おお、そちらもそんなに秋が進みましたか!  私は耐え切れずにストーブに火を入れてしまいました(笑)。

 己の非を認めることは、いつの時代も難しいですよね。 ましてや、己の非を自覚してなければ尚更でございます。 人のふり見て我がふり直せ、私も気をつけなければ、と思います。
 こちらこそ、身の引き締まるご感想をありがとうございました!
背景画像「幻想素材館 Dream Fantasy」さま
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