其の七「国」@管理人作品第10弾
2010/10/13(Wed) 09:40 No.124
カウントダウン! ぼさぼさしていたら残り日数が……!
しかも、今月に入って御題をひとつも昇華していないことに気づいてしまいました。
なんてヘタレな管理人なのでしょう、しくしく。
完遂できない予感がひしひしとする中、七つ目の御題をアップいたします。
「東の海神 西の滄海」の一節につき、捏造必至及び原作引用注意、
苦手な方はご覧にならないでくださいね〜。
- 登場人物 尚隆・六太
- 作品傾向 シリアス
- 文字数 967文字
「十二国記で12題」其の七
国
2010/10/13(Wed) 09:44 No.125
国破れて山河あり、城春にして草木深し。昔、そう歌った詩人がいた。戦で国が荒廃しても、山河は変わらずそこにあり、春になれば草木が生い茂る、と。
失ってしまった瀬戸内の小さな国もそうなのだろう。小松が滅びても村上がその後を治め、無残に壊された屋形も春になればきっと草木に覆われてしまう。死体ばかりが浮いていたあの海も、今は何事もなかったかのように波を打ち寄せているのだろう。そう、かの地はそうやって興亡を繰り返してきたのだ。
しかし、この地は。
尚隆が初めて踏んだ雁州国の大地は、見事なくらい何もなかった。侵略があったわけでもないの
に──。
折山の荒、亡国の壊。磯の岩場で拾った子供はそう言った。己はそんな荒んだ国を背負っているのだ、と。それでもよければお前に国をやろう。子供は厳かにそう告げた。ほしい、と答え、尚隆は今ここにいる。
王がいなければ、怪しげな生き物が跋扈し、天候が荒れて作物どころか草すらも生えない。それが、尚隆に与えられた雁という国。
なるほど。尚隆は納得して頷く。この地は己だ。何もかも無くし、この身ひとつしか持たぬ己と同じ。
思わず笑いが込みあげてくる。そんなとき、背に視線を感じた。振り返ると、不安げに見つめる瞳があった。この国はここまで荒れていただろうか。そんな呻き声が聞こえそうな貌。
「見事に何もないな」
素直な感想を述べてみる。尚隆をこの地に導いた子供、延麒六太は黙して頷いた。無から一国を興す。確かに大任だ。何気なく呟くと、六太は不安に緊張を加えた貌をする。子供に責任を押しつけるつもりなどないというのに。尚隆は笑って続けた。
「これほど何もなければ、かえって好き勝手できて、いっそやりやすいことだろうよ」
それは本音だった。何も持たぬ己が何もない国を興す。似つかわしいことのように思えるのだ。聞いて六太は俯いた。どうした、と問うと、大きく息を吐いた。幾分顔色が良くなったように見える。尚隆は六太の肩に手を乗せ、蓬山に行こう、と声をかけた。六太は小さな声で囁くように言った。
「──頼む」
若、と声がした。守り切れなかった数多の民たちの声だ。国を任されながら、彼らを救うことはできなかった。そんな己が独りで生き残ろうなど思ってもいなかった。だが、まだこの手を必要としてくれる国がある。それならば。
「任せておけ」
そう答えて尚隆は笑った。任されることの喜びを噛みしめながら。
2010.10.13.
後書き
2010/10/13(Wed) 09:57 No.126
杜甫のこの詩が大好きです。
けれど、十二国の世界はこの詩のようには決してならな
い──。
語りたいことは色々あれど、上手く言葉に置き換わりません。
考察を述べることができる方々を尊敬して已みません。
私にとってはかなり難しいことですので。
ただ、ひとつだけ。
尚隆が目指すものは、「誰もが居場所を見つけられる国」ではないかと私は思います。
全面的に己を肯定してもらえなくても、自分の居るべき場所を見つけることができる、そんな国。
更夜が後に犬狼真君となったのは六太や尚隆と触れ合ったからだと思えるのです。
求める側から与える側への転換、というか。
更夜は、施政者の手から零れてしまう人々を救済するために、
零れてしまう人々の立場から手を伸ばす者になったのだ、と。
ああ、考察はやっぱり難しいです!
2010.10.13. 速世未生 記
十二「国」! 空さま
2010/10/13(Wed) 22:19 No.127
お題、読めて幸せです。ありがとうございます。
どうか、ご無理なさらぬよう。
そうですね〜「何もない」というものの「何もなさ加減」が、
当時の雁は半端ではなかったのでしょう。
それを蓬莱から連れてきた尚隆さんに背負わせなくてはならないというのが
六太君には切なかったのでしょうね。
あーー言葉がちょっと違うなあ。切ないのとは違うような気がする。
考えさせられるお話です。
しかしながら、此処までの皆様の考察などを読ませていただいて、
蓬莱と異なり十二国では、やはり王と里木や野木が関係しているのかもしれません。
王が倒れたからって、野木なんかは勝手に卵果を実らせたって良いと思うのですが、
「何もなくなってしまう」ということは、
だんだん実り方も少なくなってしまうのかもしれませんね。
あ〜〜十二国、見てみたいです。
Re: カウントダウン! ネムさま
2010/10/13(Wed) 22:21 No.128
私も考察は苦手です。
だから感想も上手く言えませんが…作品を読んで思い出したのは
「黄昏」のラストの六太の台詞「人を助けることで自分が立てる」。
そして、こちらはうろ覚えですが「東の海神」で尚隆が驪媚達が殺されたのを
「俺の血肉を削がれた」みたいなことを言ってた場面です。
小松の領地を失ったことで尚隆はある意味、物凄く強欲になったかもしれませんね。
自分の民を決して離さない、漏らさないようにしようと。
人によってははた迷惑にも感じるでしょうけど、
それでも「ここに居ろ」と言われると人間は嬉しいです。
更夜が黄海の神になっても人に繋がれているのも、そんな気持ちからなのでしょうか。
もし尚隆が死ぬなら、後には山野も人も残っていくのを感じて逝ってもらいたいです…って、
トンデモ感想で失礼しました(;><;)
Re: カウントダウン! 黎絃さま
2010/10/13(Wed) 23:01 No.129
未生様、ご無理はなさらないでください〜お祭りを開いてくださった自体感謝してます!
(ここ数回お名前の誤変換をしてました……申し訳ありません(;><;))
求める側から与える側への転換……ですか。
尚隆の国と更夜が求めていた居場所の間に乖離があったとしても、
既に更夜はそれを嘆いている訳ではなさそうですね。
尚隆は尚隆のできることを、更夜は更夜にしかできないことをするんだな、
と改めて考えさせられました。
もとから尚隆のアイデンティティーないし存在意義は「国のぬしであること」。
「東の海神」は延麒の慈悲と尚隆のポリシーが幾度となく衝突した出来事____
どっちに譲っても死人が出るジレンマ___の、ほんの一部分でしかないわけですよね。
にも拘わらず二人を繋ぎとめているのが、上のようなやり取りの記憶なんだろうなと思います。
それに比べると陽子と景麒は……
いくら綺麗ごとを並べても陽子としては不本意な成り行きだったのが事実ですからね。(^_^;)
うーん、気の利いたことが書けなくて……失礼しました!
ご感想御礼 未生(管理人)
2010/10/14(Thu) 09:29 No.130
皆さま、温かなお言葉をありがとうございます。
御礼を、と思いつつ、出かける時間になってしまいました。
また後程改めて御礼申し上げます。
出かけるときに限って場面が降りてきてじたばた……。
相も変わらず夏休みの宿題を最終日に纏めてやるタイプですね、私(笑、えない)。
空さん>
温かなお言葉をありがとうございます。楽しんでいただけて嬉しく思います!
尚隆登極時の雁の何もなさは私の妄想を存分に刺激してくれました。
その妄想を受け止め、更に膨らませてくださってほんとうに感謝いたしております。
最後までよろしくお願い申し上げます!
ネムさん>
え、感想苦手なのですか? そうは思えません〜。
いつもネムさんの美しいお言葉の数々に感服いたしておりますよ!
確かに、「東の海神〜」ラスト間際に尚隆は「俺の身体を三人分えぐり取ったに等しい」と
六太を責めています。
おっしゃるとおり、小松氏の滅亡を経験したからこそ尚隆は欲深くなったのかもしれませんね。
ところで、私事ながら、尚隆末声は執筆済みでございます。
もしよろしければ末声別館にて「解放」をご覧くださいませ。
黎絃さん>
いえいえ、お気になさらず。
私も最初、黎絃さんの漢字を勘違いしておりました。
で、コピペさせていただいておりますので(笑)。
変換し難い名前で却ってごめんなさいね〜。
>尚隆の国と更夜が求めていた居場所の間に乖離があったとしても、既に更夜はそれを嘆いている訳ではなさそうですね
まさしくそう思います!
というか、「図南〜」を読んで、「乗騎家禽の令」が発布されたからこそ
更夜は犬狼晋君になったのでは、と思ったものでございます。ありがとうございました〜。