其の八「祈り」＠管理人作品第５弾

　今朝の最低気温は１６．７℃。１４時は２６．５℃まで上がっております。 実に北の国らしい気温差でございます。秋晴れのよいお天気ですよ〜。
　管理人、漸く小品を仕上げることができました。 祭半分でまだ１／３……。あはは（乾笑）。

※　管理人の作品は全て尚陽前提でございます。

• 登場人物　　陽子・尚隆
• 作品傾向　　シリアス
• 文字数　　960文字

「十二国記で１２題」其の八

祈　り

　郊祀。それは、冬至の日に、王が自ら神を祀り、国家の鎮護を願う祭礼である。国に安寧を。在位する王は等しくそう祈願するのだ。
　郊祀は王が行う祭礼のうち、最も要となるものであった。だから、即位式はどうしても冬至の前に済ませたい、と諸官は言い張った。こちらの常識に疎い陽子は従うしかなかった。
　神を祀り、国のために祈る。それが郊祀における王の役目。そう教えられ、そのとおりに祭礼をこなした。疑問など挟む余地はなかった。けれど、今は。
　幾度こうして冬至を迎えたことだろう。正装して郊祀に臨み、景王陽子は様々な思いに駆られていた。

　あちらにいたときは、気軽に神頼みをしていた。正月には御神籤を引いて結果に一喜一憂した。受験の前には神社にお参りに行ったりもした。
　こちらでは、民は神に祈らない。試験は勉強すれば受かるし、金は稼げば貯まる。なのに、何を願うのか。楽俊はそう言って首を傾げた。洪水は治水をすれば起こらないし、冷害は穀物を備蓄すれば凌げる。それは王の仕事だ、と。それなのに。

　神籍に入った王が、天に祈るのか。民に神と仰ぎ見られる立場の王が。

（──神に捧げられし贄は、王自身だ）

　いつのことだったか、悠久の時を王として過ごす隣国の王は、そう言って嗤った。聞いて陽子は少なからず驚いた。
（延王……）
（──戯言だ、気にするな）
　稀代の名君と称される雁国の王は、自嘲めいた笑みを浮かべて話を打ち切った。その後、いつもの軽口を聞きながらも、陽子は尚隆の放った言葉をずっと忘れられずにいた。

　あれから幾年も過ぎた。が、尚隆の真意は今なお分からない。それでも、陽子は毎年祈念するのだろう。この身に命ある限り、国に安寧を、と。それは、景王陽子の心からの願いでもあるのだから。

　水を収め、地を均し、己を律して長生きをすること。王がすべきことはそれだけだ、と老師は笑った。それだけかと安堵し、それだけかと不安に思った若き日。陽子は過ぎし日を懐かしく思い出す。そして──。

　おもむろに北西を仰ぎ見る。己と同じく国の鎮護を願っているはずの伴侶を想い、陽子は鮮やかに笑ってみせる。

　己が神に捧げられし贄ならば、それでもよい。課せられた己が役目を果たそう。そして、延王尚隆、あなたの国にも安寧を。今この時、心からの祈りを捧げよう──。

2010.09.14.

後書き

　「月の影〜」を読み直し、常世の人は神頼みをしないのか、と改めて思いました。 それなのに、王は天を祀るんだな、とも思いました。
　王が天を祀らなければならないわけは色々あるのでしょう。 そんな妄想もそのうち昇華してみたいものでございます。

2010.09.14.　速世未生　記

祈り読ませていただきました　空さま

　ああ、こちらも十二国の中で深いお題ですね。 「神」とは何かは、読む人それぞれが自分の心と対話するべきことかもしれません。 この国の制度を読んでいると、思うところがいろいろありますよね。 「そんな妄想」ぜひお話にしてくださいませ。 お待ちしております、 のんびりと。未生さまの視点、感銘しております。 ではでは、また参ります。

信仰・・・　griffonさま

　未生様の小説を読んで、なるほど思わず膝を打ってしまいました。
　神に祈らない人を統治する神（神籍ってくらいですから王は神ですよね）が 神（天帝って神？　と言う疑問は若干ありますが）に祈り願うってのは、確かに不思議ですよね。 設定萌を標榜しながら、これは盲点でした(^_^;)
　原作を読んでいると、人は、神（王なり天帝なり）がこちらとは違って実在するから、 祈らない(信仰の対象とは成りえない)と言う気もしますが・・・

　ふと思いついたのは、もしかして・・・
　郊祀って、王が天帝に行う決算報告もしくは、天帝による王の給与査定日みたいなもの なのかな？　
　と言うこと。この一年つつがなく国を治めましたと言う(^_^;)
　覿面のように天綱に思いっきりひっかかるものについては、ひっかかった瞬間に発動する場合も あるのでしょうが、失道にはある程度の猶予がありますよね。 スーパーやコンビニのポイントカードでは無いでしょうが、 たまった失道ポイントを郊祀の際に読み込んで（王にはそう言うシステムっぽいものが、 例の階を昇る際に埋め込まれてるような気が）天帝が判定する日・・・とか？

　もう一つ浮かんだのは、神（王）は存在するから祈らない。 でも天帝は存在しないから祈る。天帝とはルールそのものであって実在しない。 だから融通もなにも効かない。実在しないから信仰の対象となりえる。 天帝は人を縛るものではなく神（王）を縛るルールだから信仰するのは神（王）だけで、 人は天帝も王もヒトカラゲなので祈らない・・・とか。
　こっちは無理があるかな(^_^;)

　「神の贄は王」と言う尚隆の台詞の重さと、この小説の雰囲気を激しく壊すコメントで 申訳ありませんでした。

祈りとは…　ネムさま

　昔テレビで盆の送り火の場面を見、人が祈る姿は美しいと思ったことがあります。 大切な人の魂の安寧、親しい人の幸福…「祈りは真実の言葉でなくてはならない」と 犬狼真君は言いましたが、人の力で為せることは祈らない常世の人々も、 沸き上がる想いには自然と頭を垂れるのでしょうか。 例えば鴻慈を廟に捧げる戴の人々のように。 そして尚隆も己を捧げるほどの想いを抱えているから祈るのかもしれない、 そして陽子も―なんてことを考えさせられました。
　ご無沙汰している間にも、未生様の作品も、投稿者の方々の作品・コメントも どんどん増えていて、思考妄想が頭を飛び跳ね楽しいです。 これだけお祭りが賑わうのは、やっぱり主催者の人徳ですね（^^v）

遅くなりました　未生（管理人）

　管理人のくせに反応が遅れてしまって申し訳なく思っております。 言い訳になってしまいますが、皆さまのコメントで妄想が炸裂してしまい、 上手く言葉が出てまいりません。嬉しい悲鳴を上げるのみでございます……。

空さん＞
　早速のご反応をありがとうございました。 ええっ、「そんな妄想」書いていいんですか！　とバタバタしてしまいました。 しかも書き始めてしまいました(苦笑)。 あらら、収拾がつきません〜（自業自得）。 妄想を刺激してくださってありがとうございました。

griffonさん＞
　設定萌のgriffonさんを刺激することができて嬉しく思いました♪　 私は、やはり、オタクかな、マニアかなって奴でして、 ＷＨ版と講談社文庫版の付け合わせまでやったことがございます(笑)。 なので、この度のご考察も胸躍りました。
　そうそう、覿面の罪は一発免停のようなもので、他はある程度のポイントが溜まると アウトになるのでは、と私も思います。 いやぁ、思うことは沢山あるのですが、上手く纏めることができません。 今度チャットでもやりませんか(笑)。

ネムさん＞
　私はキリスト教徒ではないのですが、合唱団にて賛美歌をよく歌いました。 ゴスペルも歌ったことがございます。 若い頃は先生の指示のままに歌っただけでしたが、年を取ってくると、 その短い歌に籠められているものに胸打たれます。 「祈り」とは、人任せにすることではないのだ、と改めて思うのでございます。
　更夜は真摯に祈ることによって犬狼真君になったのだろうか、と「図南〜」を読んだときに 思いました。思い出させてくださってありがとうございます。
　人徳なんてとんでもないことでございます。 私の拙い妄想も皆さまのコメントによって膨張増幅いたします。 祭も萌えをいただくために行う私の道楽でございます。 お付き合いくださって本当にありがとうございます！

チャット？？　空さま

　やっていただけるならぜひいつどこでされるのか教えてください。 最近めっきり夜に弱くなったので、参加できないかもしれませんが……

chat？　griffonさま

　windowsliveとかgoogleのチャットとか言う手もありますが・・・ うちのサーバーの片隅に、チャットのＣＧＩがあったので、一応起動出来るようにしときました。 未調整なんで、不具合でるかもしれませんが(^_^;)
　でも、未生様はたしか、世間がお休みの時は浮上しにくかったんでしたっけ(^_^;)

郊祀とは　けろこさま

　神と呼ばれる立場ながら人でしかない王が、道を外さないよう己を律し、 見つめなおすために行う儀式、じゃないかなとこの話を読んで思いました。
　郊祀自体が国を治める力を持つのではなく、定期的に神を祀り国の安寧を祈ることで、 「王」であることを再認識し初心に戻るために必要なんじゃないかな〜。
　だって、沈んでいく国でも郊祀を行っていただろうからねぇ。

つい口走りましたが　未生（管理人）

griffonさんのおっしゃるとおり、私が浮上できる時間帯は たいがいの皆さまのご都合がよい時間から外れておりますから、 腰を据えてのチャットは難しいでしょうね〜。 私はWindousLiveに登録しておりますので、 ご都合が合う方はどうぞ話しかけてみてくださいませ。アカウントは

mugen-yawa☆kfd.biglobe.ne.jp　（☆を＠に替えてください）

でございます。

　空さん、せっかくご反応くださったのにごめんなさいね〜。

　griffonさん、大変お手数おかけいたしました。

けろこさん＞
　ご感想をありがとうございました。 郊祀については色々妄想を抱えております。 そんなものを書き連ねていたら、お題が進まなくて……(苦笑)。 いつか出せたらいいなと思っております。