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其の十「天」


 こんな作品を表に出してよいのかどうか……。 結構悩みましたが、出してしまいます。
 捏造過多注意!  何でも許せる心の広い方のみご覧くださいませ。

※ 管理人の作品は全て尚陽前提でございます。

「十二国記で12題」其の十

 ──さて、慶をどうしたものか。

 彼は深い溜息をつく。

 悧王は在位六十八年を経て斃れた。次に立てたのは女王。が、後に薄王と諡された彼女は、権を顧みず奢侈に溺れ、その朝は十六年で潰えてしまった。気を取り直してもう一度立てた女王は、権に執着して人民を苦しめた。その比王の在位は二十三年。彼は溜息を禁じ得なかった。
 三度目の正直とばかりに次も女王を選んだ。財にも権にも興味を示さない予王は己の麒麟に恋着した。その在位は僅か六年。彼は頭を抱えた。

 次の手をどう打つか。

 思案にくれる彼はまたも溜息をつく。予王の妹が勝手に景王を名乗ったのだ。それ相応の学を積んだものであれば、予王と同じ姓をもつ妹が次王に選ばれるはずがないことを理解しているだろう。しかし、一般民衆はそれを知らない。知る必要もない、と彼は思う。

 混乱を収めねばなるまい。

 三代続いた女王がいずれも短命、しかも、偽王までが女王。慶国民の女王に対する不信は強い。しかし、ここで王を立ててしまえば、次に女王が立ったとき、どうなる? やはり、次は長命な女王を立てたい。彼は考えを巡らせる。

 思惑どおり巧く進めるには。

 新たな女王には後ろ盾が必要だ。かつて恭に奏を充てたように。となると、候補は隣国の雁。しかし、現延王はこちらの意のままに動く男ではない。しかも、下手に小細工をすると、雁を滅ぼし尽くしてしまいかねない危険な王。彼は一度思考を切り、茶を一口啜った。

 度し難い延王を動かしてこそ、計画はより強固になる。次代は女王と決まっている。それでは胎果を充てよう。さすれば、変わり者も気にかけるだろう。そう結論を下し、彼はほくそ笑む。
 慶国内に王気がなければ、景麒は胎果の可能性を考える。そして、蓬莱に行くならば、胎果の延麒を頼るだろう。同じく胎果の延王の知るところとなる。そこまで考えて、彼は顔を蹙める。

 延王の気を引ける娘でなければならない。が、その若さでは、現在の蓬莱の娘がそのまま玉座に就くことはできまい。彼は過去へと思いを馳せる。
 胎果の延王尚隆は元が小国の世継ぎ、若過ぎた供王珠晶は裕福な商家の娘、共に余人に命令することに慣れていた。それでは、胎果の娘は少し苦労をさせて心身を鍛えなければならない。彼は唇を吊り上げる。
 慶の偽王に肩入れしている塙王に、景麒の後を追わせようか。心の闇につけこめば恐らく行動を起こすだろう。あの男は、最早天命を失うことを恐れていない。彼は立ち上がった。

 さあ、胎果の女王、覚悟を決めるがいい。慶国秘蔵の宝重より警告を受けよ。危険を事前に察知せよ。生国に戻って荒んだ国を統べるために。彼は手を広げる。

 事が巧く進めば、蓬莱に置き去りにされた兇をも回収できるかもしれない。そう思い、彼は冷静に布石を打ったのだった。

2011.02.08.

後書き

 捏造過多の問題作をご覧くださり、ありがとうございました。 このお話は「夢幻夜話」本編の行きつく先である長編の冒頭に当たるものでございます。 以前、拍手其の百六「天帝の呟き」としてアップしたものを「丕緒の鳥」で 語られたものを加味して改稿いたしました。
 いつか書いてみたいお話でございます。 けれど、書き進めるのが怖いトンデモ話でございます……。

2011.02.08. 速世未生 記
背景画像「幻想素材館 Dream Fantasy」さま
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