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其の十一「死」@管理人作品第6弾

2010/09/19(Sun) 14:51 No.56
 時間を見つけましたので浮上できました。 さくさく進めてしまいたいです〜。それでは五つ目の御題をどうぞ。

※ 管理人の作品は全て尚陽前提でございます。

「十二国記で12題」其の十一

2010/09/19(Sun) 14:54 No.57
 死ぬかもしれない。死にたくない。けれど、もう、身体が動かない。このまま死んでしまうのだろう。これでとうとう楽になれるナァ、と耳障りな声が聞こえたような気さえした。

「──そのときは、自分がそう簡単には死ねない身体なんだ、なんてことは知らなかった」

 そう、この世界では、王は神だ。飢えや怪我くらいで死ぬことはない。あのまま雨に打たれ続け、それでも死なない己を知ったなら、陽子はどれほど驚愕したことだろう。
「だから、楽俊には今でも感謝してるよ」
「──なるほどな」
 昔話を楽しげに聞いていた延王尚隆が相槌を打つ。そして不意に目を細め、再び口を開いた。

「では、玉座に就いてから死を意識した時、お前は何を思ったのだ?」

 何気ない口調の静かな問い。しかし、その身に纏う圧倒的な覇気に、陽子は瞠目して動きを止めた。何を問われたかは明白だ。泰麒帰還後の内宰の謀反のことを言っているのだ。
 見つめる瞳の勁さに、身が震える。それでも、この問いから逃げてはいけないことは分かっていた。陽子は姿勢を正し、真っ直ぐに隣国の王を見つめ返す。そうしておもむろに答えた。

「当の民に、いらない、と言われるならば、あり続けても仕方がない、と思った」

 戴を救うことは慶を救うことに繋がる、と信じていた。そのためにできることをしよう、と努力した。が、事態が進む毎に己の手の小ささを知った。王でありながら、陽子にできることは、ほんの僅かなことのみだった。そして、天ですら万能ではない、と悟り、己に降りたとされる天意をも信じられなくなっていたのだ。そんなとき、己の臣である筈の者たちから投げつけられた、不信の言葉。
 あの時の虚脱を思い出し、陽子はついと目を伏せる。が、それもほんの一時。陽子は再び揺るぎなく見つめる稀代の名君の瞳に視線を戻した。それを待っていたかのように、延王尚隆は問いを重ねる。
「今でも、そう思うか?」
「いいえ」
 陽子はゆっくりと首を振る。そうして、未だ小さいままの己の手に目を落とした。この手が掴めるものは少ない。それでも、手を伸ばすことを止めてしまえば、何も掴めないのだ。
「あなたは、どうせ寿命は長いのだから気長にやれ、と仰った。今なら、その言葉の重みが分かります」
 王には寿命がない。王のやることには終わりがないからだ。それでも、死なない王はいない。いつかは己の身にも死が訪れる。その日は、突然やってくるのかもしれない。あの日、己が斃れていれば、そう思っただろう。
「──相変わらず、お前は真面目だな」
 尚隆はそう言って陽子の手を取る。大きな温かい手に包まれて、小さな手は見えなくなった。尚隆は楽しげに笑って続けた。

「その手は小さくとも、お前は人を動かす術を知っているだろう」

 陽子は首を傾げる。が、尚隆は人の悪い貌をして笑うのみ。たまに真面目になったと思ったらすぐこれだ。陽子は肩を竦めて嘆息した。
「──あなたの言うことは、いつも分からない」

「諸国が手を結ぶ礎を作ったのはお前だぞ、景王陽子」

 忘れるなよ、と言って延王尚隆は破顔する。陽子は何も言えず、ただただ目を見張っていたのだった。

2010.09.19.

後書き

2010/09/19(Sun) 14:58 No.58
 いつか書いてみたいお話でございました。纏めることができて嬉しく思います。

2010.09.19. 速世未生 記

このお話も十二国らしいお話ですね 空さま

2010/09/19(Sun) 21:30 No.60
 最近、空は十二国に完全に戻れなくなっていて、こちらに寄せていただいて こういったお話を読むたびに、頭のリハビリになっている感じがするのです。 (ん? 心のリハビリかな)
 この二つの陽子にとっても死の対比は、とても素晴らしい視点ですね〜 のんきな空には絶対出てこない視点ですよ。
 さすが未生様でございます。
 もう少し、余裕を作って、原作を読み返さなきゃ、なんて考えています。 ますます盛況ですね。お題ももう少し、完成すると良いですね。また参ります!

ありがとうございます 未生(管理人)

2010/09/20(Mon) 19:25 No.66
 空さん、いつもご反応をありがとうございます。 こちらこそ、空さんのお役に立てて嬉しく思います。
 今回、「初心に帰って書きたい時に書きたいものを書きたいように書く」という コンセプトでやっております。 そうすると、私の書きたいものは、尚陽的原作幕間シリアスのようでございますね。 そのような暗くて重いものをお楽しみくださってありがとうございます!

無題 ネムさま

2010/09/23(Thu) 17:42 No.76
 今回もいろいろ考えさせられます。 やっぱり若い頃より「死」に近づいたせいでしょうか。 でも「死」という締め切りが誰にでもあるから、また悩んだり頑張ったりするのでしょうね。 陽子の小さな手はあとどれだけ何を動かすのでしょうか。
 やっと酷暑から解放されそうですね。 未生さまもいよいよ「書きたいように書く!」を邁進していって下さ〜い(\^0^/)

ご感想御礼 未生(管理人)

2010/09/24(Fri) 11:28 No.79
 本日の最低気温は8.7℃でございました。 室温も20℃を切っておりまして、手が悴んで動きません。 数日前には最低気温が20℃を切りました! と喜んでいた筈なのですが、 今年の秋は駆け足で通り過ぎて行きそうでございます。 なんて、まだまだ暑い地方の方には申し上げてはいけない贅沢でございますね〜。

 ネムさん、ご感想をありがとうございました。
 「人生を折り返した」と感じてから幾歳が過ぎたでしょう。 「もう!?」と驚かれたこともございましたが、「死」はいつ来てもおかしくはないものですから、 覚悟だけはしておこう、と常々思っております。
 王には寿命がありませんが、死なないわけではない。 「黄昏の岸〜」を読んだ時、陽子の投げやりな態度に「消極的な自殺」を感じ、 何とも言えない怒りを覚えたことを思い出します。
 人一人にできることは少ないかもしれない。それが神であってさえも。 だからこそ、自分にできることを地道に積み重ねていくことが大切なのではないでしょうか。 そうしたひたむきさが他者を動かす力になるのではないでしょうか。そんな風に思います。
 暑くなくなったと思ったら、いきなり寒くなりましたが、 私も地味に書き続けていこうと思います。エールをありがとうございました!
背景画像「幻想素材館 Dream Fantasy」さま
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