其の十二「蓬莱」@管理人作品第14弾
2010/10/16(Sat) 17:41 No.163
ラストひとつを残し(泣)タイムアップ!
残念ながらひとつ残ってしまいました。いつか出せる日を願って已みません……。
それでは十一本目の御題をご覧くださいませ。
「死」の続きという設定でございます。最後は尚陽で。
※ 管理人の作品は全て尚陽前提でございます。
- 登場人物 陽子・尚隆
- 作品傾向 シリアス
- 文字数 730文字
「十二国記で12題」其の十二
蓬 莱
2010/10/16(Sat) 17:42 No.164
大きな手に包まれた小さな手はすっかり温まっていた。陽子の手に余ることをやってのける稀代の名君は、厳しい問いかけをした時とは似ても似つかぬ優しい貌をしていた。このひとは、いつも未熟な王に自信を持たせてくれる。昔も今も変わらずに。
今ならば、訊けるかもしれない。いつも訊きたくて、ずっと訊けずにいたことを。図らずも同じ頃の話題が上がったこの時ならば。陽子は意を決した。
「あなたは……あのとき、あそこで、何を見たの?」
小さな声で問う。躊躇いが大きすぎて、意味不明なことを言ってしまった。かといって、何と言い直せばよいのかも分からない。陽子は唇を噛んで俯く。大きな手に包まれたままの手がわなないた。それなのに──。
「──異国だ」
延王尚隆は、静かに応えを返した。驚いて顔を上げると、尚隆は穏やかな笑みを浮かべて陽子を見下ろしていた。
泰麒捜索の折、蓬莱で何を見たのか。
陽子は尚隆にそう問いたかったのだ。自分でも巧く伝えられないことを、尚隆は何故分かってくれたのだろう。不思議に思って見つめても、尚隆がそれ以上語りを続けることはなかった。
「──そう……」
陽子は小さく呟いて俯いた。五百年ぶりの故郷は、尚隆にとって異国だった。ならば、陽子も歳月を重ねればそう思えるようになるだろうか。切ない郷愁も超えていけるだろうか。
不意に手の力が増した。再び見上げると、尚隆は深い笑みを刷き、ゆったりと口を開いた。
「──あそこが、お前の故郷なのだな」
陽子は声なく頷いた。不思議と涙は出なかった。ああ、私はもう大丈夫。何故かは分からないけれど、そう思うことができた。
「──ありがとう」
素直な気持ちを伝えると、尚隆は驚いたように目を見張った。そうして、意味不明だな、と言いつつも、楽しげに笑った。
2010.10.16.
後書き
2010/10/16(Sat) 17:46 No.165
糖度低めですが尚陽でございます。
今回は硬いお話が多くて肩が凝ってしまったので、
私にとってもお口直し的作品と相成りました。お楽しみいただけると嬉しいです。
はい、これから時間を見つけてレスいたしますね!
明日の朝にお終いのご挨拶いたします。
それまで、皆さまのご感想や作品を受け付けます。
最後までどうぞよろしくお願いいたします!
2010.10.16. 速世未生 記
そうきましたか!(にっこり) 空さま
2010/10/16(Sat) 21:17 No.174
「蓬莱」というお題を見たとき、未生さまがどこをお書きになるか大変興味深かったです。
お題消化お疲れさまでした。ひとつ残すのも、おまけみたいでよいのではないかと思います。
付録が全員プレゼントみたいに後から届くというのも楽しいものです。
(あ、決してご無理なさらずに!)
尚隆さんと出会うことで、故郷へ帰りたいといういかんともしがたい飢餓感から
解放されたようですね。本当によかった!
空は陽子さんにはたくさん幸せになってほしいです。
素敵なお話ありがとうございました。
5周年祭宴たけなわ、楽しかったです!
ありがとうございます 未生(管理人)
2010/10/18(Mon) 06:33 No.196
空さん>
この場面はいつか書きたいと思っておりました。
けれど、つい書き込み過ぎてしまう場面でもございました。
祭掲示板に書くことによって頭を冷やして仕上げることができたように思います。
こちらこそありがとうございました。
ひとつ残ったのはほんとおマヌケなのですが、そのうち出せたらいいなと思います。