「十二国で十二題」 「管理人作品」 「祝12周年十二祭」

其の二「小さくなった半身」@管理人作品第1弾

2017/09/01(Fri) 16:42 No.1
 本日の北の国、最低気温は15.0℃、最高気温は22.2℃でございました。 爽やかな晩夏でございます。

 さて、9月1日になりました。拙宅もとうとう12周年を迎えました。 ご来場くださる皆さまのお蔭でございます。ありがとうございます〜。
 十二国記で12年。今年は十二尽くし、 アンケートで募集いたしました「十二国で十二題」のお話を書いてまいりたいと思います。 これから約1ヶ月、どうぞ「祝12周年十二祭」にお付き合いくださいませ。 皆さまにお楽しみいただけると嬉しゅうございます。

 投稿の見本を兼ねて管理人作品第1弾をお送りいたします。 よろしければご覧くださいませ。

「十二国で十二題」其の二(恭)

小さくなった半身

2017/09/01(Fri) 16:45 No.2
 麒麟は小さい方がよい。

 供王珠晶は常々そう思っていた。己の半身は、がっしりとした身体を持ち、上背もある。見当違いの慈悲を振り撒く下僕を嗜めるためには、側近くまで呼び寄せ、屈ませなければならない。そうしなければ、手が届かないのだ。

「――供麒」
 今日も珠晶はにっこりと笑みを浮かべて己の宰輔を差し招く。傍に来て跪いた下僕に与えるものは、その小さな掌だ。痛々しい音が高らかに響き渡り、珠晶もまた痛む掌をぱたぱたと振る。続く主の説教を、項垂れた宰輔はしゅんとして聴き入るのだった。

 そんな日常が、ある日覆った。主上、と幾多の慌てた声が掛けられる。常にない騒々しさに、執務中の珠晶は眉根を寄せて顔を上げた。

「主上!」

 嬉しげに呼ばう宰輔の声は常より少し高い。そして、笑みを浮かべるその顔は、なんと少年のものだった。珠晶は驚き立ち上がる。
「――供麒!?」
「はい」
 半身はふんわりと笑んで応えを返す。珠晶を見上げるその顔はなんとも嬉しげだ。珠晶は所在なげに己の麒麟を見下ろす。そう、見下ろしたのだ。いつもならば首が痛くなるほど見上げる半身を。

 珠晶は愕然と立ち竦む。十二で時を止めた珠晶の背は低い。それよりも小さい供麒が、童のように清らかな笑みを浮かべて珠晶を見上げているのだ。

「どうなさいました、主上?」

 固まる珠晶を、不思議そうに小首を傾げた供麒が見つめ返す。

 可愛い。供麒なのに、可愛い。

 珠晶は拳を握り、ぶるぶると震えた。そんな珠晶をあどけなく見上げる小さな麒麟のなんと愛らしいことか。周囲に眼を遣ると、困惑した下官たちが、息を呑んで主従を見守っていた。

 なんだかよく分からないが、小さくなってしまったものは仕方ない。ひとつ深く息を吐き、珠晶は供麒に問いかける。
「仕事に障りはない?」
「はい、もちろんです」
 小さな供麒は、にっこり笑って元気に答えた。あまりの愛らしさに、自然に手が伸びる。珠晶は供麒の頭を撫でた。半身は大きく眼を瞠り、それから幸せそうに頬を染めたのだった。

 その日、供王の執務室にて怒声が上がることはなかった。小さく可憐な麒麟は珠晶の心を癒し、和やかに温める。穏やかに政務を執る珠晶は、小さな麒麟が齎した効用に満足していた。

 そのまま数日が過ぎ、霜楓宮が小さな宰輔に慣れた頃、それは起きた。

 いつものように執務室にて書簡を捌く珠晶は、限りの良いところで休憩が取れるよう女官に茶菓を申しつけてあった。積まれた山がなくなる頃に差し入れられたそれは、温かな湯気を上げている。
「供麒、休みましょう」
 珠晶は筆を置き、側近く控える小さな麒麟に声をかけた。はい、と柔らかく答えた半身が、茶杯に手を伸ばし、それを掴み損ねた。かしゃんと高い音がして、白磁の茶杯が砕け散る。あ、と声を上げた宰輔は、そのまま欠片に手を伸ばした。
「――供麒!」

 手を切る、と思った。血の穢れに弱い麒麟を守るつもりで咄嗟に伸ばした手だった。それなのに。

 小さな麒麟は弾き飛ばされ、ぱたりと倒れた。そしてそのまま動かない。珠晶は悲鳴を上げた。
「供麒! 供麒!」
 倒れた宰輔は駆けつけた下官に抱き起された。近づいた女官がそっと珠晶の背を撫でる。うっすらと眼を開けた供麒は薄く笑った。

「大事、ありません……」

 その言葉が動けずにいた珠晶の呪を解いた。珠晶は下官に抱かれた供麒に走り寄り、己よりも小さなその手を取る。もう片方の手を伸ばした供麒は、主の頬に流れる涙をそっと拭った。

「大事ありませんから……」

 ふわりと笑う半身を見つめる珠晶の眼が見開かれ、ぎゅっと閉じられた。一度止まった涙がまた溢れる。半身の小さな手が、ゆっくりと頭を撫でた。

 小さな麒麟がほしいと思った。可愛い半身に癒された。けれど、毎日がこの調子では身が持たない。珠晶は声を殺して泣き続けた。半身の小さな手は、そんな珠晶の頭を優しく撫でていた。

 明くる日、珠晶は常の如く執務室にて政務を執っていた。主上、と叫ぶ数多の声が近づき、珠晶は深い溜息をつく。何でも来い。珠晶は顔を上げて扉を睨んだ。

「主上」

 いつもの声がした。珠晶は肩の力を抜く。入ってきたのは、普段通りの大きな半身。珠晶を玉座に押し上げた麒麟が、温かな笑みを浮かべて拱手した。珠晶は満面に笑みを浮かべて己の半身を差し招く。素直に従う宰輔の頬を、珠晶は思い切りよく張り飛ばす。掌の痕をつけた大きな麒麟は嬉しげに笑った。

「――おかえり」

 小さな声でそう告げる主を、大きな麒麟は愛おしげに抱き上げたのだった。

2017.09.01.

後書き

2017/09/01(Fri) 16:55 No.3
 第1弾は恭国主従にご登場願いました。 違うものを書こうと思っていたのですが、どうにも纏まらず、 諦めてこちらを書き始めたのは昨夜でございました。 間に合うのだろうか、と慄きつつ、本日断続的に書き上げました。よかった……。
 なんだか初日からフラグが立っておりますね(苦笑)。 周年祭なので生温くお見守りくださいませ。

 皆さまの素敵な十二国のお話をお待ち申し上げております。

2017.09.01. 速世未生 記

12周年おめでとうございます! 饒筆さま

2017/09/01(Fri) 22:59 No.4
 記念すべき12周年そして十二祭の開幕おめでとうございます〜!!  これからも末永くよろしくお願いしまーす!

 そして、ああ……珠晶さま、 やっぱり「思いっきり気持ちをぶつけられる半身」が良いんですねえ。 供麒の方は大きくても小さくても幸せそうですが(笑) 「供麒なのに、可愛い」の一文に吹き出してしまいました(あはは!)

 楽しい&ほっこりな第一弾をありがとうございました♪

祝12周年! ひめさま

2017/09/01(Fri) 23:32 No.7
 早いもので12周年、おめでとうございます!  しかも時の流れに置いて行かれることもなく……素晴らしいことだと思います。

 さてさて管理人さま作品第1弾は 最後の「ーーおかえり」にすべて集約されているように思いました。 途中、白磁の茶杯が砕け散って、お湯がかかったらまさかの変身、 なんてことにはならなくてほっといたしました(笑)。

 あら。饒筆さんに先を越されてしまいました〜。 一番乗りだと思っておりましたのに(笑)。

言祝ぎ 篝さま

2017/09/02(Sat) 00:00 No.8
 「夢幻夜話」さまの十二周年ならびに、十二祭の開催をお慶び申し上げます!  これからもどうか十二国民の道標となってくださいますよう、応援させて頂きたく思います。

 さてさて。
 早くも素敵な第一弾の投下でございますか!
「やー! 供麒なのに可愛い〜〜〜〜〜!!!!」
 いや、もうまさに、珠晶と同じことを口走りながら読み進めておりました (ゴロンゴロン)…お駄賃あげるから、ちょっとこっちおいで、供麒……。
 隣の芝生は何とやら、口ではいろいろ言うものの、 やはりいつもの素の自分を曝け出せる半身を大切に愛おしく思っているのが伝わってきて、 何だかこっちも嬉しくなってしまいますね…ほう……。

 素敵な作品をありがとうございました。

12周年おめでとうございます!  ネムさま

2017/09/02(Sat) 00:11 No.9
 干支一巡り、お祝い申し上げます(笑)  私がここまで十二国記の二次を続けてこられたのは、 偏に未生様が開催して下さるお祭りのお蔭です。 これからも益々のご活躍、ご発展をお祈りいたしております。

 と言うことで、お祭恒例の管理人様の第1弾。 小さい半身と言えば、やっぱり供麒ですねぇ(笑)  珠晶ちゃんも半身をぶちたいわけではなく、甘えているんですよね。 供主従のあまりの可愛さに顔が緩みっぱなしでした。 そしてやっぱり、供麒が元に戻って良かったです。
 心和む作品、楽しませて頂きました ^m^

おめでとうございます! 文茶さま

2017/09/02(Sat) 23:09 No.12
 十二周年、十二祭開催おめでとうございます!  私の十二国記熱を再燃していただいた「夢幻夜話」さまに感謝感謝でございます。 これからもどうぞよろしくお願いします〜!

 私も「供麒なのに、可愛い。」の箇所で、ふふっ(笑)となり、 母性本能に目覚めた!?殊晶にやられました〜。 また健気なちび供麒が可愛くて可愛くて!
 元に戻った供麒に、こうでなくちゃ♪ との殊晶の声が聞こえてきそうですね。 これからよしよししてあげる機会が増えるといいな〜と思います。 (圧倒的に引っ叩かれる方が多いと思いますが 笑)
 じんわりほっこり温かいお話をありがとうございました!

ご感想御礼 未生(管理人)

2017/09/03(Sun) 23:28 No.21
 いやはや、管理人、久々に嘔吐と下痢のダブルコンボを喰らいました。 涼しくなったからといって食品管理をなおざりにしてはいけませんね〜。
 というわけで、浮上が遅くなってしまい、大変失礼いたしました。

饒筆さん>
 12周年に寿ぎをありがとうございます!
 「供麒なのに、可愛い」にご反応くださりありがとうございます。 私も書いていてそこが一番のツボでございました(笑)。
 やはり珠晶にはいつもの供麒が一番! そして供麒はいつも嬉しい(笑)。
 ほっこりしてくださりありがとうございました〜。

ひめさん>
 おおう、お早いお出まし、嬉しく思います。 私の歩んだ12年、ひめさんはほとんどリアルでご存じなのですよね〜。 長らくのお付き合い、ほんとうにありがとうございます!
 「おかえり」に感じ入っていただき、ありがとうございます。 そこに辿りつくのが目標でございました。上手く着地できてほっとしております。
 白磁が砕け散ってお湯がかかって元に戻る、とは! そちらもまた面白いですね〜。

篝さん>
 12周年にお祝いをありがとうございます!  道標などちょっと面映ゆいのですが、 十二国民が集まって楽しめる場を作れているならば光栄に思います。 今回もどうぞよろしくお願いいたしますね!
 小さな供麒を可愛がっていただけて嬉しく思います。 書いた私もなんて可愛らしいんだろうと震えておりました(笑)。 さすがの珠晶も可愛いものに手は上げられない……。
 うん、供麒は大きいからよいのですよね。

ネムさん>
 物凄いお言葉をいただいてしまいましたね!  祭を開くとネムさんから素敵なお話をいただける、 そんな幸せを私こそが噛みしめておりますよ!
 はい、やはり恭国主従は小さな珠晶と大きな供麒。 小さい供麒は可愛いけれど、やはり珠晶にお似合いなのは大きな半身でございますよね。 お楽しみいただけて嬉しく思います〜。

文茶さん>
 おお、十二再燃のお手伝いができましたか! 大変光栄に思います〜。 こちらこそこれからもよろしくお願いいたしますね!
 「供麒なのに、可愛い」感じをお楽しみくださりありがとうございます。 ちび供麒、ほんと愛らしいですよね〜。 でもでも珠晶にはやはり大きい供麒! 叩かれるのも幸せ!  拙い作品をお楽しみくださりありがとうございました〜。

 皆さまの素敵な作品をまだまだお待ち申し上げておりますね〜。

Re: 祝12周年! 由都里さま

2017/09/14(Thu) 23:20 No.31
 未生さん、遅ればせながらコメントさせて頂きます!
 サイト12周年ならびに十二祭開催おめでとうございます。 今回もできる限り参加させて頂きたいです。

 大好きな珠晶ちゃんのお話が読めて幸せです。 自分も年齢入れ替えネタをやったことがあるのですが、 懐かしい感覚がよみがえってきました。 どうも気の強い女の子は小さい男の子に弱くなるという法則があるようです(笑) 供麒くんの可愛さは無限大ですなあ…

ご感想御礼 未生(管理人)

2017/09/15(Fri) 23:21 No.38
 由都里さん、12周年に寿ぎをありがとうございます〜。

 さすがの珠晶も自分より小さい少年には強気に出られないようでございました。 それが供麒であろうとも(笑)。お楽しみいただけて嬉しゅうございます。
 由都里さんの年齢入れ替えネタは以前存分に楽しませていただきました。 またお待ちしておりますよ!
背景画像「素材屋 flower&clover」さま
「十二国で十二題」 「管理人作品」 「祝12周年十二祭」