「十二国で十二題」 「管理人作品」 「祝12周年十二祭」

其の六「友誼」@管理人作品第4弾

2017/10/02(Mon) 22:47 No.168
 皆さま、こんばんは〜。いつも祭にレス及び拍手をありがとうございます。

 本日の北の国、最低気温は13.2℃、最高20.7℃でございました。 数日前はひとケタ気温でしたので、かなり暖かく感じます。

 さて、10月に入りました。管理人は漸く第4弾を仕上げましたので投下いたします。 今回は原作「黄昏」幕間、捏造たっぷりの奏のお話でございます。 苦手な方はご注意を。

「十二国で十二題」其の六(奏)

友 誼

2017/10/02(Mon) 22:53 No.169
「やあ、文姫。こんな夜更けにどうしたんだい」

 下の兄はのんびりとそう言った。機嫌よさげなその笑みに、文姫もまた満面の笑みを返す。
「もちろん兄さまを待っていたのよ。訊きたいことが山ほどあるわ」
「おやおや、それは穏やかでないね」
「言うと思ったわ」
 文姫は後ろ手に持っていた物を掲げてにっこりと笑む。一筋縄ではいかない兄は僅かに眼を瞠り、それから笑みを深めた。
「なるほど。文姫の本気を見たからには、付き合わなければならないかな」
 喰えない兄の懐柔はひとまず成功したらしい。幻の銘酒と謳われる逸品は役立った。文姫は笑みを湛え、酒器を調えた居間へと兄を導いたのだった。

「兄さまがいつ延王と誼を持ったのかなんて無粋なことを聞く気はないけれど」
 軽く兄を睨めつけて、文姫は肴を勧める。無論、利広が肴より酒を求めていることは承知の上だ。利広もまた理解しているのか、素直に肴に手を伸ばす。
「聞き捨てならないことを言うねえ」
「今日が初対面でないことなんて、みんな気づいているわよ」
 呆れたように肩を竦めると、兄は大きく笑ってみせた。そうだろうね、と軽く返して酒杯を差し出す。文姫は深い溜息をつきながら銘酒を注いだ。

「――で、何を訊きたいんだい」

 利広は酒に口をつけ、柔和に笑う。銘酒は思うより兄の心を解いたようだが、文姫がそれを顔に出すことはなかった。

「延王の思惑、かしらね」

 雁より泰麒捜索協力依頼を受け、奏は才や恭とともに崑崙を探索していた。此度蓬莱にて泰麒の消息が発見され、麒麟の気配を辿れる使令を借り受けるために、延王は景麒とともに清漢宮へとやってきた。泰麒捜索は、延王自らが奏に出向いて説明しなければならないほどの案件となっていたのだ。
 延王と景麒、奏国王家の公での会談にて分かったことは、泰麒を早急に探し出して穢れた使令ともども連れ戻さなければならないこと。そして、公式には顔を合わせたことがないはずの雁国延王と奏国第二太子卓郎君が誼を持っていたことだ。

「延王の、思惑?」

 公の話し合いを終えた後、密かに延王と酒席を設けたであろう利広は訝しげに訊き返す。文姫はまたも深々と嘆息した。この兄がそう簡単に本音を語るはずはない。分かってはいるのだが。もう少し手札を見せなければならないか、と思うと溜息しか出ない。文姫は利広を正面から見返した。

「――麒麟がいるあの場では言えなかったけれど、延王は今回のことを静観していたはずよね」

 ああ、と利広は軽く頷いた。我が兄ながら察しの良いことだ。みなまで言う必要はなさそうで、文姫は唇を少し緩めた。

「――待っていれば、いずれは泰果が生るはずだからね」

 簡潔な兄の返しに、文姫は黙して頷く。この世は各国の独立不羈を尊び、国々の交流を良しとしない。古の隣国の朝が突然斃れたあの日の衝撃を、文姫が忘れることは決してないだろう。他国への干渉は、善意であれど、時に苛烈な制裁を齎すこととなるのだから。
 杯を乾かし、文姫に差し出した利広は、薄く笑って告げた。

「氾王もそう言っていたそうだよ」

 王なら誰もが考えることだよね、と続けて利広は注がれた酒を美味しそうに呷る。酒瓶を持ったままの文姫は大きく眼を瞠った。ふっと笑いが漏れるが、余計な口は挟まない。兄が情報を開示するということは、その必要があるからだ。文姫は酒瓶を置き、静かに利広の言葉を待つ。

「――今回のことは、戴の将軍が景王に助けを求め、理を知る延王が景王に論破されて始まったという」

 聞いて文姫は首肯する。蓬山から直接奏を訪れた延麒がそう種明かしをしたのだ。麒麟が諫言しても王が肯んずることはないだろう案件だから、延麒の言に文姫たちは納得もしたし、延王を動かした景王にいたく興味を持った。今回も、延王が景王を伴うことを期待していたほどに。

「――蓬莱組が慶に集まったのも、氾王が景王に興を覚えたからなのだろうねえ」
「延王が、そんなことを?」
「言うはずがないよね。ただ、景王は王であって未だ王ではない、とだけ」

 身を乗り出した文姫に、利広は爽やかに笑ってみせる。

 王であって未だ王ではない。

 その言葉を胸で反芻し、文姫は腑に落ちたような気がした。そんな文姫を利広は面白げに見つめている。

「景台輔に訊いてみたんだろう?」
「ええ。ますます景王にお会いしてみたくなってきたわ」

 景麒は会議後の茶会にて訥々と語ってくれた。無口な景麒に主のことを語らせるのにはそれなりに苦労したが、その甲斐はあった。

「――私たち、永く生きすぎたのかもしれないわね」

 永きに亘り、他国の盛衰を見続けてきた。父王が登極して間もない頃によく面倒を見てくれた隣国が覿面の罪で斃れた後、特に慎重になっていたのかもしれない。だからこそ、奏は六百年続く王朝となったのだろうが、それでも時は留まってはいない。新たに芽吹いた若い王朝が、新しい風を吹かせている。その風に、永く玉座にある者がより強く魅せられるのかもしれない。

「――そのうち会えるよ。きっと、これで終わりじゃない」

 雁や範を動かすほどの王だもの。そう続けて利広は笑みを深めた。古くは恭の少女王とも誼を結び、今また雁の王との縁をも明らかにした風来坊の兄。文姫は利広を睨めつける。

「――兄さまの言うことは、ほんと思わせぶりだわ」

 兄は楽しげに笑う。その笑みの向こうに、まだ見ぬ歳若き女王の笑みを見たような気がして、文姫もまた唇を緩めるのだった。

2017.10.02.

後書き

2017/10/02(Mon) 22:56 No.170
 「黄昏」余話「友誼」をお送りいたしました。 拙作長編「黄昏」第30回あたりと黄昏余話「奏国茶会」の裏話にもなりますね。 ご興味おありの方は拙宅夜話本館にてご覧くださいませ。

 今回は一応十二題を十二国で書こうと割り振りました。 この「友誼」、奏国の別の話を書こうと思っていたのですが、 文姫さんの興味がこちらに向いてしまいました(苦笑)。 祭の宣伝のためにピクシブに昨年の「黄昏祭」の作品を アップしているせいかもしれません〜。

 さて、1日1作仕上げてももう御題完遂には至りませんが、最後まで頑張りますね〜。 そこのあなた、管理人とともに足掻きましょう(笑)。 あなたの素敵な「十二国で十二題」作品をお待ち申し上げております。

2017.10.02. 速世未生 記

大型換気扇 ネムさま

2017/10/03(Tue) 23:19 No.176
「永く生き過ぎた」 文姫ちゃんが言うと感慨ひとしおです。 奏のご一家は理不尽とも言える天の摂理を目の当たりにして、自分の国を守ってきたのですよね。 それだけで十分すごいと思うけれど、そのために忘れてきたものもあるのでしょう。 家の中の空気が濁らないように、常に風を入れるのが、利広の役目かもしれませんね。 でも換気扇の威力が凄すぎて、驚かせられることも多々あるようで…
 文姫の本気も見られて楽しゅうございました(笑)  示唆に富んだお話、ありがとうございました。

風を起こす者 文茶さま

2017/10/04(Wed) 22:45 No.179
 新たな風に、永く玉座にある者がより強く魅せられるのかもしれない ーー。 確かに、大王朝を築くには、天網の中でより安全な道を歩まねばなりませんよね。 その上で奏の治世が長いのは、風を起こす利広が居るからでしょう。 (ネムさまの大型換気扇がツボに入ってしまいした〜。 風起こしすぎて鬱陶しい、みたいな 笑)
文姫さんは、同じ風の者として利広を通して陽子主上を見ているのでしょうね。 このお二人の対面を是非見てみたいです!

ふおお… 篝さま

2017/10/04(Wed) 23:12 No.181
 しびれます…格好いいなあ、文姫ちゃん…!

 奏国ファミリーの方々が、この境地に至るまで、どれだけの苦難を乗り越えてきた事か。 いろんなものを見聞きして、いろんな感情と向き合ってのみ込んできて。
「永く生きすぎた」からこそ、陽子さんという人物のお人柄に触れることが出来たのですよね。 その事実に感謝いたします。
 文姫ちゃん、きっといいことあるよ。

 素敵な、素敵な作品をありがとうございました。

いつか会ってほしい…  由都里さま

2017/10/06(Fri) 01:30 No.200
 で、でたー! 永遠の十八歳、文姫ちゃん!  …私は文姫ちゃんのこういうところが大好きです。 そして未生さんがお書きになる利広さんとの兄妹感が出ている文姫ちゃんも大好きです。 お酒をそっと差し出すあたり、オニーチャンの扱いを心得てますね(*´ω`)
 このお話を読んで、ますます「文姫ちゃん、陽子さんといつか会ってほしいなあ」 と思うようになりました。できればそこに珠晶ちゃんも加えて。 きっと豪勢な女子会が出来上がることでしょう…

Re: 第4弾です 饒筆さま

2017/10/06(Fri) 02:35 No.205
 うわあ〜さすが櫨家!  末っ子まで「全員で宗王」の薫陶が行き渡っておりますね!  なんてカッコイイ兄妹の会話なのでしょう!
 そして、常に風を読んで&新しい風を拒むどころか興味を持って取り入れる度量が 長生きの秘訣なんでね〜凄いなあ。見習いたい。

 もしも陽子さんが櫨家にお邪魔したら、 ひっぱりだこ&四方八方から愛のある質問攻めで大変でしょうね(笑)

ご感想御礼 未生(管理人)

2017/10/08(Sun) 23:02 No.241
 皆さま、拙作にご感想をありがとうございました〜。 大変遅くなりましたが、レスさせていただきます。
 あ、実は拙作では文姫ちゃんは陽子主上に会っております。 珠晶も一緒でございます。 09桜祭での素敵絵に触発されて書き流した連鎖妄想でございます(笑)。 視点はかの方ですけどね!

ネムさん>
 永く生きすぎた文姫さんには古の覿面の罪を語ってほしかったのですが、 そうは問屋が卸しませんでした(苦笑)。 覿面の罪をリアルで知っている唯一の王朝は、意外に孤高なのかもしれません。
 利広が大型換気扇(笑)。かなりツボに入りました〜。 風来坊の太子はやはりきちんとお役に立っているのですよね!  こちらこそ楽しいご感想をありがとうございました。

文茶さん>
 永く生きているからこそ新しい風に惹かれるのかな~と思いますね。 私自身もお若い皆さまから刺激をいただいてております(笑)。 やはり利広の存在意義は大きいのだと利広贔屓の私は断言します〜。

篝さん>
 文姫をお褒めくださりありがとうございます。 これだけ永く生きた方々を惹きつける陽子主上の魅力もなかなか〜と思ったりいたしますね!

由都里さん>
 文姫をお気に召していただけて嬉しゅうございます。 利広を喋らせるのは妹でも大変だろうとの妄想でございました〜。

饒筆さん>
 はい、全員宗王の櫨家でございます(笑)。 永く続く王朝には新しいものを受け入れる度量が備わっているのでしょうね。
 もしこの時景麒じゃなくて陽子主上が来ていたら、 もっと凄いことになっていたのでしょうね(笑)。
背景画像「素材屋 flower&clover」さま
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