其の七「御伽噺」@管理人作品第8弾
2017/10/09(Mon) 17:53 No.255
皆さま、こんばんは〜。いつも祭にご投稿及びレス、拍手をありがとうございます。
本日の北の国、最低気温は12.9℃、最高気温は22.0℃でございました。
寒さに慣らした体には暑く感じる気温でございます。
さて、本日投稿最終日、管理人はひとつシリアス小品を仕上げました。
舞台は芳国、月渓の独白でございます。捏造設定がございます故、苦手な方はご注意を。
- 登場人物 月渓・祥瓊
- 作品傾向 シリアス
- 文字数 1063文字
「十二国で十二題」其の七(芳)
御伽噺
2017/10/09(Mon) 17:56 No.256
公主は御伽噺の中に住まわされていたのかもしれない。
僅か十三歳で時を止められて、世に響き渡る悲鳴も届かない宮城の最奥に隠されていた。掌中の珠の如く両親に慈しまれ、多くの下官に傅かれて暮らしていた公主。その笑みは清らかで、無垢な人形のように愛らしかった。何も知らぬが故に。
月渓は深い溜息をつく。前の主を思い起こすと未だ胸に痛みが甦るのだ。清廉潔白だった前王の理想は崇高だった。そんな国を造ることができる人物だと期待もされていた。だがしかし。
峯王仲韃が造り上げた国は、民の悲嘆で満ちていた。一分の汚れもない国を目指した王は、罪を犯した民に流させる血で自ら国を汚していったのだ。信念を持って些細な罪をも厳罰に処していった王。その為人を知らなければ、ただの残虐な王にしか見えなかっただろう。事実、民は怨詛を籠めて王を仲韃と呼び捨てていた。
理想と現実の乖離に苛立つ国主は、公主の無垢な笑みに癒しを求めていたのだろうか。そこに安寧を見出していたのだろうか。
月渓は敬愛する主を諌めることができなかった。領地に住む民の嘆きを正しく主に伝えることができなかった。結局、月渓は、最悪の方法で主を止めた。それは、十重二十重に守られていた公主の御伽噺の世界を壊す行為でもあった。
月渓は公主の仙籍を削除し、止められた時を動かした。人はみな、現実の世界に生きなければならない。御伽噺に住まう人形ではなく、地に足をつけた人間として。しかし。
月渓の願いは届かなかった。里家に下ろせば村人に身分を気づかれて私刑にあいそうになり、恭国に預ければ王の御物を盗んで逃亡した。聞く度に月渓は肩を落とした。やがて。
慶国からの使者が元公主の消息を齎した。届けられた書簡には、彼女の悔恨が率直に綴られていた。人は、変わることができるのだ。その思いは月渓の胸をじんわりと温めた。
時が経ち、再び慶国から勅使がやってきた。胎果の王より、蓬莱では春を告げる花だという桜の若木を携えて。勅使の名は、女史祥瓊。無論、月渓は驚いた。官吏が着用する官服を纏う元公主は、優雅に拱手し口上を述べる。その完璧な対応に、月渓は眼を細めた。
御伽噺に閉じこめられていた人形は、今や解き放たれて血の通った笑みを見せる。簡素な官服姿は、着飾っていた公主時代よりも遥かに美しい。
主上。
月渓は胸で呟く。
あなたの望みとは違うかもしれませんが、あなたが慈しんだ一瓊は、美しく成長されました。御伽噺の世界を逸してなお――。
きっと、もう、峯王仲韃が月渓を揺るがすことはなくなるのだろう。そう思い、月渓は深い笑みを刷いた。
2017.10.09.
後書き
2017/10/09(Mon) 17:57 No.257
「十二国で十二題」其の七「御伽噺」をお送りいたしました。
17桜祭「仮王の招聘」にてその後の祥瓊に会う月渓を沍姆視点で書きました。
今回はその設定を使いつつ、「十三歳という微妙な歳で祥瓊の時を止めた仲韃の思惑」を
月渓視点で探ってみました。
管理人、かなり自己満足に浸っております。
あんまり御題に沿っておりませんがどうぞご寛恕くださいませ。
さて、投稿最終日でございます。そこのあなた、最後まで諦めないでくださいね!
管理人も本命シリアスを抱えております。ともに足掻きましょう(笑)。
皆さまの素敵な「十二国で十二題」作品をまだまだお待ち申し上げております。
2017.10.09. 速世未生 記
考えちゃいますね… 瑠璃さま
2017/10/09(Mon) 19:41 No.262
本当に仲韃は何を考えて僅か13歳の祥瓊を仙籍へと入れたのか。
無垢と信じる子供のまま、
世間に触れさせずにまさに御伽の国で過ごすことが幸せと考えたのか。
清廉潔白な仲韃の歪みなのかな…。
考えさせられるお話でした。ありがとうございます!
月渓さんの笑顔 由都里さま
2017/10/09(Mon) 21:26 No.265
月渓の祥瓊に寄せる想いの深さは、原作を読んでいて痛いくらいに伝わって来ます。
ただ、もちろん敬愛する主上の娘さんだから大事にしたい、
というのもあると思うんですけど…
どちらかというと、学校の先生が不良生徒に抱く愛情に近いのではないかと私は感じるのですよね。
芳でただ1人、祥瓊の将来を案じていた月渓。
そんな彼の前に、立派に成長したかつての不良娘が現れ、
心から笑顔になったのではないかと思います。
そしてきっと涙がぽろりと出てしまうんだろうな、なんて。
特に今の芳では新峯王が践祚するまでまだまだ長い時間がかかるでしょうから、
日々苦労している彼に一時でも幸福を与えてあげたいですね。
良かった....。 文茶さま
2017/10/09(Mon) 22:42 No.271
祥瓊は夢の様な御伽噺の中で、全ての穢れから遠ざけられ守られ、
この幸せが何時までも続くと信じて疑わなかったのでしょうね。
その夢の国が民の苦しみの上に成り立っていたこと事さえ知らずに。
楽俊に向かって放った「何も知らなかったのよ!」との叫びに胸が詰まります。
月渓の苦渋の決断から始まり、幾多の出会いを経て、強く美しく成長した祥瓊。
月渓も、勅使として来訪した祥瓊との再会で、峯王仲韃から解き放たれたのですね。
良かった....本当に良かった。読んでいてうるっときました〜。
心温まるお話をありがとうございます!
動き出した世界 篝さま
2017/10/09(Mon) 23:43 No.280
何も汚れを知らないままの無垢な祥瓊は、
もしかしたら清廉潔白な国を目指す仲韃さんにとっては
「芳」そのものの象徴だったかもしれませんね…。
国中から「悪しきもの」を排除する行為は、
祥瓊を世俗に触れさせぬようにしていた行為に似ているような気もしてなりません…。
しなやかに美しく、まるで桜の木のように成長した祥瓊。
月渓だけでなく、ご両親にも見てほしかったですね…。
ほら、あなた達の娘はこんなにも咲き誇る花の如く綺麗になりましたよって。
作り物めいたものではなく、心底内面から滲み出る美しさに叶うものはないのだからと。
個人的には月渓にはまだまだ仲韃さんに囚われていてほしいけど(おい)、
月渓の心が少しでも軽くなってほしいのも、これまた事実ですから。
月渓のお話を読めて本当に本当に嬉しいです! ありがとうございました。
自分を許してあげて(うるっ) 饒筆さま
2017/10/10(Tue) 00:54 No.287
月渓は、自分が一番自分を許せないんだろうなあ〜
いつも自分で自分を責め苛んでいる人なんだろうなあツライなあと思うので、
祥瓊の成長が、
彼が自分を少しでも許してあげられるきっかけになったらいいなあと夢みました。
祥瓊もまた、自分が月渓の辛さを和らげてあげられた=少しは役に立ったこで、
すこーし自分を認めてあげられたらいいですね……
しみじみと温かいお話をありがとうございました。
これから始まる物語 ネムさま
2017/10/10(Tue) 21:54 No.299
御伽噺には本来様々な教訓が含まれているそうですが、
祥瓊のことも、国政の浄化のことも、深く読み解くことなく、
美しいことや感動的な部分だけを念頭に、現実世界の物事を進めてしまったのが、
峯王の悲劇だったのでしょうか。そこに悪意が無い事を知っているだけに、
月渓は余計辛かったのでしょうね。
祥瓊が自分で新しいページを開いたことにより、彼女自身も月渓も救われたでしょう。
これが新しい御伽噺として伝えられる日が来ますように。
ご感想御礼 未生(管理人)
2017/10/11(Wed) 00:30 No.318
実は当日捻り出したツーライ小品に秀逸なご感想をありがとうございました〜。
瑠璃さん>
13歳って微妙な歳でございますよね。子供ではないけれど大人には到底なりきらない……。
「清廉潔白な仲韃の歪み」、胸に沁みました。ありがとうございます。
由都里さん>
「先生と不良娘」、言い得て妙でございますね(笑)。
どんなに愛を持って指導しても立ち直らなかった不出来な子が
ある日きちんと成長して現れる……。そんな喜びもあったかもしれませんね〜。
苦労性の月渓に少しでも癒しを与えられたのなら、と思います。
文茶さん>
「その夢の国が民の苦しみの上に成り立っていたこと事さえ知らずに」
素晴らしいお言葉でございますね!
そう、無知は罪だと学んだ祥瓊が月渓の前に表れる、
そんな打悔いが月渓にあってもよいのではないかという妄想でございました。
うるっときてくださってありがとうございました。
篝さん>
「無垢な祥瓊が仲韃が目指す芳の象徴」
うわあ、深いお言葉でございます! そのとおりだと思います。
悪しきものを全て排除しても、
祥瓊が真実清らかであったかというとそうでもないのですが……。
こちらこそ秀逸なご感想をありがとうございました。
饒筆さん>
そうですね、月渓にはもう少し楽なってほしいと思います。
過去の自分を反省した祥瓊が前を向いて歩いて行くことで、
辛さが和らぐなら見せてあげたいと思って已みません……。
ネムさん>
そうなんですよね。世の中善とか綺麗なことだけで構成されているわけではないのですよね。
仲韃はそこを間違えてしまった……。
ああ、これが新しい御伽噺となるならば救われます。主に私が。
含蓄あるお言葉をありがとうございました。