「帰山で十題」 「管理人作品」 「祝10周年帰山祭」

其の二「勅使」@管理人作品第10弾

2015/10/15(Thu) 00:23 No.131
 皆さま、こんばんは〜。いつも祭にご投稿・レス及び拍手をありがとうございます。 レスは明日いたしますね!

 本日の北の国、最低気温は3.8℃、最高気温は13.2℃でございました。 恐る恐るカーテンを開けましたが、真っ白ではなかったので安堵いたしました。

 さて、多少遅刻いたしましたが、本日の一作をお送りいたします。 原作「黄昏」で描かれなかった延王と景麒の奏国訪問を利達視点で書いてみました。 捏造必至ではございますが、よろしければご覧くださいませ。

「帰山で十題」其の二

勅 使

2015/10/15(Thu) 00:26 No.132
「景王はいらっしゃらないのね」
 茶会の準備をしていた文姫が、残念そうに嘆息する。利達は思わず苦笑を零した。この妹は、胎果の少女王に興味津々だったのだ。
「ほんとうに残念だよ。私も伏礼を廃した女王にお目見えしてみたかった」
 利広までがそんなことを言う。利達は呆れ顔で弟妹を嗜めた。
「お前たち、延王と景台輔は火急の用でいらっしゃるのだぞ」

 雁の呼びかけで始動した七ヶ国による泰麒捜索。それは、戴の将軍の訪問を受けた慶が、大国雁を動かして始まった。先に事情を説明に来た延麒によると、覿面の罪を心配して止める延王を、景王が論破したのだという。文姫や利広が興味を示して当然だろう。しかし。
 今回の訪問は雲海の上からで、使令に先触れさせるという異例な事態だ。気を引き締めて迎える必要がある。利達は利広に眼をやった。
「それに、利広は延王とはお会いしたことがないだろう」
「無論、延王にまみえるのも楽しみにしているよ」
 放浪癖のある弟は、清漢宮にいないことが多い。利達の言葉に、利広はにっこりと笑んだ。利達は眉を上げる。そんなとき、先新と昭彰が典章殿に戻ってきた。代わりに文姫が笑みを湛えて立ち上がり、賓客を案内するために堂室を出ていった。

 来客時は一度宗王宗麟が六官とともに出迎え、その後茶会という名目で後宮に招待する。王族が統治する奏ならではの流儀だ。利達は先進を見やった。
「如何でしたか」
「挨拶する間も惜しそうだったので、早々にこちらへお招きしたよ」
「なるほど」
 いつも合理的な延王が、更に形式を略しているのか、と利達は納得する。そうこうしているうちに文姫が来賓を伴って戻ってきた。

「延王、景台輔をお連れ申し上げました」
 堂室に残っていた五人は一斉に立ち上がり、賓客に拱手して礼を尽くした。軽く挨拶を交わした後、文姫に誘われて客人は席に着く。いつもながら飄々とした延王、緊張した面持ちの景麒。初対面の慶の麒麟に明嬉が笑みを湛えて茶を差し出した。
「お初におめもじいたします、宗后妃明嬉にございます。景台輔、どうぞお楽になさってくださいませ」
 后妃自らのもてなしに、景麒は眼を見開いている。思った通りの反応だ。最初は誰もがその所作に驚く。
「──景麒、御自ら茶を淹れるのは、其許の主だけではないのだぞ」
 延王が楽しげにそう言った。その揶揄に、場が笑いでさざめく。それを受けて利達は口を開いた。
「おお、景王もでございますか。奏では、この父王自ら茶を淹れることも、珍しくはございません。──お初にお目にかかります、英清君利達にございます。景台輔、どうぞよしなに」
 利達の挨拶に、景麒はぎこちなく頭を下げる。その様に笑みを送り、延王は場を見渡した。そして、利広に目を留め、おもむろに口を開く。
「──おお、初めてお会いする方がおられるな」
「延王、景台輔、お初にお目にかかります。卓郎君利広にございます。どうぞお見知りおきください」
 火急の用と言いながら、延王は楽しげだ。そして、それを受ける利広も慣れた調子で応える。利広と視線を合わせた延王は更に続けた。
「ようやく対面が叶ったな、卓郎君。よろしければ、ゆっくりと旅の話でも聞かせてもらいたいものだ」
「私の方こそ、稀代の名君の誉れ高き延王に拝謁でき、光栄至極でございます。私の拙き旅の話など、ご所望であれば、いつでもお聞かせいたしましょう」
 利広は滑らかに受け答えた。延王は笑みを湛えて頷く。それは、利達にとって、どうにも芝居がかって見えた。
「話が弾むのは結構だが、此度は火急の用とのこと、延王のお話を伺いたい」
 挨拶が一通り済んだと判断したのだろう。先新が切り出した。景麒の緊張を解すために成された和やかな場が、その一言で引き締まる。居心地悪そうに坐っていた景麒も背筋を正した。それを見やり、延王はゆっくりと語り出す。
「蓬莱探索の結果、泰麒の気配を発見したのだが……」

 蓬莱で発見された泰麒は、穢瘁で病んで麒麟の力を喪失し、暴走した使令を抑えることができないでいる、という。泰麒本人の発見のために、こちらの三ヶ国の使令も借りたいのだ、と延王は要望を述べた。それを受けて、問答が始まる。奏側の問いかけに、延王は丁寧に答えた。
 病んだ泰麒を連れ戻してよいかどうか、景王と延麒が蓬山に確認しに行っているという。蓬山の許可が得られれば、延王が虚海を渡る。
 質疑応答は淀みなく続けられた。やがて議題が出尽くしたとき、黙して聞いていた宗王先新が、厳かに口を開く。
「──使令をお貸しいたそう」
「ありがたきお言葉に感謝申し上げる」
 勅使の役目を果たした延王は、深く頭を下げた。その後も細かな打ち合わせが続く。動かせる使令を先に慶に向かわせることを決めて、茶会はお開きとなった。賓客は一夜の休養を取るために掌客殿へと引き上げたのだった。

 皆が席を立った後も、利達は残って仕事を続けた。泰麒捜索は最終段階に入ったようだ。蓬莱に気配があるなら、奏・恭・才による崑崙捜索が終了する。要請に応えて手配を終えてしまえば、あとは待機するのみだ。それ故に、妹は新たに齎された景王の情報に色めき立ち、景麒を主賓とする茶会の席を設けたようだ。質問攻めにあうだろう景麒を少し気の毒に思う。利達は独り苦笑を零した。そんなとき。
「そろそろ休んだほうがよいぞ」
 穏やかに声をかけられて、利達は顔を上げる。そこには、湯気の立つ茶杯を乗せた盆を持つ父王の姿があった。利達は呆れ顔で父を見つめる。
「──お父さん、確かに昼の接見で宗王自ら茶を淹れることもあると申しましたが、早速実践されるとは」
「お母さんと文姫は、それこそ景台輔をもてなしておるよ」
 先新は茶杯を利達に差し出しながら笑った。利達は深い溜息をつく。妹だけではなく、母もなのか。面白がっている父に、利達は訊ねた。
「──延王の許には、利広が行っているのでしょう?」
「ほう、気づいておったか」
 先進は福々しく笑う。利達は顔を蹙めて応えを返した。
「どう見ても初対面ではないでしょう、あの二人は」
 延王は火急の用と言いながら、清漢宮では初対面となる第二太子と楽しげに会話していた。利広はそつなく対応していたが、滑らか過ぎて初対面とは思えない。先新は大きく笑った。
「こういうことがあるから、利広を咎められないのだよ」
「利広には、内緒が多すぎる。お父さんは利広に甘すぎますよ」
 利達は抗議の声を上げる。先新は大らかに笑った。
「その分、お前や明嬉があれを叱ってくれているのだろう? それで丁度よいのだ」
「──お父さんには敵いませんね」
 利達は肩を竦めて苦笑する。放浪を繰り返す弟は風来坊の大国の王と誼を結んでいた。確かにそれは奏のためになる。が、誉めるとますます無軌道ぶりが増すだろう。父の言うとおり、己は気儘な弟を嗜める立場にいることにしよう。そう思いつつ、利達は父の心尽くしの茶を啜った。

2015.10.15.

後書き

2015/10/15(Thu) 00:34 No.133
「帰山で十題」其の二「勅使」をお送りいたしました。 実は拙作長編「黄昏」第28〜30回の利達視点でございます。 御題其の八十一 「奏国親子の談笑」も含んでおります。捏造妄想爆発で申し訳なく。
 「帰山」で利広が公の場では会ったことがない、と申しておりましたので、 公式に対面させたかったのでした。みんなにばれておりますね(笑)。
 利達はやはり長男なのだな〜としみじみ思ったのでした。お粗末でございました。

 さてさて最終日、皆さまの素敵な帰山をお待ち申し上げております。

2015.10.15. 速世未生 記

Re: 多少遅刻しましたが ゆるぎさま

2015/10/15(Thu) 23:14 No.141
 宗家一家の素敵な会話!  そして景麒は女性陣に質問攻めに・・・

 「帰山」のシーンの中で一番好きなのが利広が家族のもとへ帰ってくるところです。 難しい問題もなんだか家族経営で乗り切っている感じが好きなのです。 親兄弟という意味での家族を得ることは絶対にできない延王とが対比されて 切ないお話であるとも思うのです。

 原作でも特に好きなお話のお祭りに参加させていただき ありがとうございました。

お兄ちゃんは苦労性 饒筆さま

2015/10/15(Thu) 23:44 No.145
 理解のあるお父さんに、真面目で頼もしいお兄ちゃん。 いいなあ……(憧れの瞳キラキラ)
 そうそう、帰山コンビの軽妙さも素敵ですが、どっしり構えた長男もカッコイイですね。 ありがとうお兄ちゃん!

 そして景麒の圧倒的に足りない言葉が余計な誤解を生んでいないか心配です。
「主上は(蓬莱で誓約したときとは)すっかりお変わりになられた」とか、
「主上は(自ら王と名乗って禁軍を抑えるために)私に跨ったことがある。 あれは少々辛かった」とか(爆)
 このシーンは妄想が妄想を呼びますね〜♪  興味深い集合シーン、またほっこり癒される一幕をありがとうございました。

ご感想御礼 未生(管理人)

2015/10/16(Fri) 23:21 No.151
 拙作にご感想をありがとうございました。

ゆるぎさん>
 奏国一家の会話をお楽しみくださりありがとうございます〜。 なんとも賑やかで、私も楽しゅうございました。
 奏の話を書くと、いつも尚隆の孤高が際立ちます。 己以外は全て、半身の麒麟でさえ臣。 その切なさが私を尚陽に駆り立てるのでございましょう……。
 祭にご参加くださり、また拙作をご覧くださりありがとうございました!  私も楽しく過ごさせていただきました。

饒筆さん>
 おっしゃるとおり(笑)。私も書いていて、お兄ちゃんは大変だ〜と思いました。
 そしてまた妄想を邁進させるお言葉を!  「黄昏」を書いていた時には書き損ねたお茶会を書いてみたくなりました(笑)。 こちらこそありがとうございました〜。
背景画像「吹く風と草花と-PIPOの部屋」さま
「帰山で十題」 「管理人作品」 「祝10周年帰山祭」