「帰山で十題」 「管理人作品」 「祝10周年帰山祭」

其の三「こんなところで会うかなあ」@管理人作品第2弾

2015/09/08(Tue) 00:26 No.12
 皆さま、こんばんは。いつも祭に拍手をありがとうございます。

 北の国、最低気温は14.7℃、最高気温は24.6℃でございました。 例年、9月といえば残暑、暑い暑いと騒ぐことが多かったように思いますが、 今年は暑かった割にはあっさりと秋が来ようとしておりますね〜。 1ヶ月前には34℃あったとは信じられません(苦笑)。

 さて、随分間が空いてしまいましたが、第2弾を仕上げました。 別なお話を書いていたはずですのに、 利広が件の科白を言ってしまったものですから(笑)。

 というわけで、「帰山で十題」其の三「こんなところで会うかなあ」を ご覧くださいませ〜。

※ 管理人の作品は尚陽前提でございます。

「帰山で十題」其の三

こんなところで会うかなあ

2015/09/08(Tue) 00:31 No.13
 久々に慶東国を訪れてみれば、面妖な二人組と鉢合わせた。堯天の下町になどいるはずもない、空の上に住まう高貴な身分の方々だ。奏南国第二太子卓郎君利広は、己を棚に上げて呆れた声を上げた。

「こんなところで会うかなあ」
「それはこちらの科白だ」

 振り返った偉丈夫は嫌そうに顔を蹙めてそう言った。隣に立つ緋色の髪の男装の麗人は、翠玉の眼を見開いて絶句している。利広は爽やかに笑み、伴も連れずに歩く二人の王に提案した。
「ここで会ったのも何かの縁だよ。夕餉でも一緒にどう?」
「――断るわけにはいかぬだろうな」
「無論だよ、風漢。訊きたいことが山ほどある」
 利広はにっこりと笑んで断じる。ここで遭ったが百年目、逃がすはずはない。無粋だな、との悪態を聞き流し、利広は二人を引き連れて飯堂に入った。

 適度に賑やかな飯堂の中、あれやこれやと注文を済ませ、利広は風漢に眼を向ける。
「――で?」
「何を答えろと?」
「答える気があるんだ」
「質問による」
「へえ、今日はずいぶん殊勝だね」
 利広は声を上げて笑う。この御仁のこんな様は滅多にないことだ。利広と風漢を見比べ、不安げな様子の少女を憚っているのだろうか。にやにやと眺める利広に、風漢が問う。
「そういうお前はどうなのだ?」
「私はいつもの如く気儘な旅の途中だよ」
「――ふん」
 信用ならんな、と風漢が低く呟いたところで酒肴が供された。利広は陽気に乾杯の音頭を取る。風漢は嫌そうに、陽子は躊躇いがちに唱和した。

 それから利広は他愛のない話をした。利広と風漢が出会う場所はいつも軋み始めた国の首都、自国で会えば恐らく利広ですら不安に思うだろう。これ以上慶主の不安を煽ることもない。実際、そろそろ節目を迎えるが故に堯天の様子を見にきたわけだが、どうやら問題はなさそうだ。食事が進むうちに、景王陽子の緊張も解れていった。

「ところで、陽子は何を騎獣にしているの?」
 そう問うてみたのは、以前風漢が、騶虞すうぐ以外の騎獣は知らぬ、と言ったからだ。厩舎で一番脚が速い騎獣だったから、という理由で騶虞を選び、以来それ以外の騎獣に乗ったことがない、と言い放つ大国雁の王の傲岸さに、さしもの利広も絶句させられた。横目で風漢を窺うと、相変わらず飄々と酒を飲んでいる。
「吉量を使ったこともあるけど……」
 景王陽子は小首を傾げて考える。その年相応の可愛らしさに目を細めつつ、利広は陽子の応えを待った。
「だいたい班渠かな」
「班渠?」
 そんな騎獣がいただろうか。知らない名前に今度は利広が首を傾げる。陽子はにっこりと笑み、小さな声で種を明かした。

「班渠は使令だよ」

 ああ、と利広は納得する。半身である麒麟が王の身を案じて使令を護衛に付けることはままある。出奔を繰り返す無軌道な主であれば尚のことだろう。慶国の女王は無邪気に囁いた。

「班渠なら隠形できるから厩に預ける必要もないし、脚も速いし、退屈な時は話し相手になってくれるし」

 諫言もされるけどね、と陽子は笑う。利広はまたも絶句させられた。その途端、足許から押し殺した笑い声が響く。件の使令だろう。

「――さすが。驚かないんだね」

 陽子は輝かしい翠の眼を瞠って利広を見つめる。その隣で風漢が大きな肩を震わせた。利広はじろりと風漢を睨めつける。

 まったく、王なんて奴は碌なものではない。

 風漢は人の悪い笑みを浮かべた。そして、眉根を寄せた利広の肩を楽しげに叩く。麗しき紅の女王は、不思議そうに二人を眺めているのみだ。利広は苦笑を禁じ得なかった。

 慶東国は、きっと大国になるだろう。けれど、これ以上隣国の王に似るのは勘弁してもらいたい。そんな心の声を聞く風漢は此度もずっと笑い続けていた。

2015.09.08.

後書き

2015/09/08(Tue) 00:36 No.14
 帰山コンビは管理人のイチオシとニオシでございます。 けれど、ほんとに書き難い(苦笑)。 この1週間、七転八倒しておりまして、他所さまの企画参加までしてしまいました。
 微妙に第1弾と繋がっておりますが、どうぞご勘弁くださいませ〜。

 皆さまの素敵な帰山をお待ち申し上げておりますね!

2015.09.08. 速世未生 記

上には上が(笑) ネムさま

2015/09/08(Tue) 22:26 No.15
 さすが陽子ですねぇ。 スウグは購うことが出来ても、使令は王様しか使えないですものね。
 更に不穏な場所に出没する風来坊二人が揃っているのに、慶は安泰。まさに最強です!  (もしかして「こんなところで…」と言うのは、危ない国で無い所で出会ったから?)

 好い男の二人連れもオツですが、女性を挟んで、 いつもと違ってちょっと楽しそうな雰囲気の二人を楽しめました。

お邪魔虫のつもりが 饒筆さま

2015/09/08(Tue) 23:18 No.17
 興味本位の野次馬もしくはお邪魔虫のつもりで介入したら、 すっかり毒気を抜かれちゃったよごちそうさん!  ってところでしょうか、利広さん(笑)  当然、並大抵の彼女じゃありませんもんねー(くすくす)
 でも利広さんのことだから、これに味をしめて?、堯天で度々(偶然を装って) 陽子さんをナンパするようになるかもしれませんね。 お気をつけて風漢どの〜っ。

 ウキウキ楽しい一幕をありがとうございました♪

ご感想御礼 未生(管理人)

2015/09/09(Wed) 18:15 No.18
 拙作にご感想をありがとうございました〜。

ネムさん>
 ほんとは陽子主上が少し荒れだしたところで出会ってしまって利広凄いね というお話になるはずだったのですが、仕上がったらこんな話に……(苦笑)。 思ったように書くって難しいと実感いたしました〜。
 はい、「こんなところ」は「危なくない街」の意も含ませました(笑)。
 陽子主上がいると、二人の会話もいつもと違っていて、 私も書いていてへえと思いました〜。お楽しみいただけて嬉しゅうございます。

饒筆さん>
 正に正に! 的を射たお言葉でございます(笑)。
 堯天を徘徊してナンパしないように、かの方は釘を刺すのですよ、きっと。 妄想を誘うご感想をありがとうございました〜。
背景画像「吹く風と草花と-PIPOの部屋」さま
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