其の四「月下美人」@管理人作品第6弾
2015/10/06(Tue) 17:50 No.96
皆さま、こんばんは〜。いつも祭にご投稿・レス及び拍手をありがとうございます。
本日の北の国、最低気温は6.5℃、最高気温は19.2℃でございました。
とうとう冬布団を出しました。けれど、まだストーブは点けておりません(笑)。
放射冷却で気温が下がり、日中はがっと上がりまして、黄葉が進んでまいりましたよ。
管理人、帰山が書けなくて他所さまの企画に参加しておりましたが、
そちらは現実逃避のせいか、あまり苦労なく書けておりました。
で、それならばそちら風に書けば帰山もイケるのでは……と考えました。
というわけで、昨夜独りワンライに挑戦いたしました。
さすがに60分では仕上がりませんでしたが、80分くらいで書き上げました〜。
うん、やってみるもんだ。
それではワンライよりは推敲に時間をかけた小品をご覧くださいませ。
- 登場人物 利広・風漢
- 作品傾向 シリアス
- 文字数 1053文字
「帰山で十題」其の四
月下美人
2015/10/06(Tue) 17:52 No.97
月光が降り注ぐ夜。甘い香りを振り撒きながら、大きな白い蕾が頭を擡げ、ゆるゆると開き始める。一夜限りの優美な花は、短いながら絢爛に咲き誇るのだ。南国でしか咲かない美しい花を、利広は独り眺めていた。
「――風来坊が自国にいるとはな」
笑い含みの明朗な声。月下美人の開花を愛でていた利広は、眉根を寄せて振り返る。そこには、自国で遭遇したくないもう一人の風来坊が立っていた。利広は深い溜息をつく。
「奏で風漢に会いたくはなかったな」
「奏はついでだ。珍しい花があると聞いたからな」
安心しろ、と言って風漢は破顔する。聞いて利広は軽く頷いた。隣の巧州国が、そろそろ最初の節目を迎える頃なのだ。
「どうだった?」
「――まあ保ちそうだ」
お前の方が詳しいだろう、と促され、利広は曖昧に笑む。地方の衛士出身という現在の塙王は、やや厳しい統治をすると聞く。海客や半獣の弾圧などがその一端だ。尤も、そういう国の方が多いのだが。利広は軽く息をついた。
月下美人の芳しい香りが生臭い話を払拭する。ひとつ、またひとつと咲き初める典雅な白い花に眼を移し、利広は呟いた。
「――天から見れば、人の国など、この花のようなものなのかもしれないね」
馥郁とした香りを放ち、美しく花開きながらも儚く散っていく。多くの国が、そんなふうに生まれては斃れていくのだ。利広は諸国の興亡を見続けてきた。それ故に予感がある。今の隣国はそう長くは持ち堪えられないだろう、と。
「さすがだな。奏の御仁は言うことが違う」
身を窶した大国の王は呵々と笑う。利広はただ肩を竦めてみせた。その揶揄こそが、利広の真意を言い当てる。そして、この男もまた、利広と同じことを感じていると分かった。
「――美しいけれど、儚いね」
見事にほころびた大きな花に手を触れて、利広は嘆息した。緩やかに咲き始め、誇らかに咲き匂い、朝が来る前に萎んでしまうからこそ、こんなにも心奪われるのだろう。
「一夜で散ると分かっているから儚く思えるのだろう」
この図体では儚さとは程遠い、と続けて風漢は笑う。確かに、強い芳香も大きな花弁も、誇り高い貴婦人のようだ。利広は月光に映える白い花を見やって首肯した。それに、と風漢は低く呟く。
「散らぬ花などどこにもない」
四百年を超える大国の王は、短い花期を謳歌する月下美人を振り仰ぐ。利広もまた咲ききった花を眺めて五百年を超える己の国を思った。
散らぬ花がないように、斃れぬ国もない。
どんなに長い王朝にも、いつかは終焉の時が訪れるのだ。それぞれの大国を担う二人は、黙して萎れゆく花を見届けた。
2015.10.06.
後書き
2015/10/06(Tue) 18:04 No.98
「帰山で十題」其の四「月下美人」をお届けいたしました。
管理人は北の国の住人で、月下美人は名前しか存じませんでした。
この御題を書くにあたって月下美人を一生懸命調べました。
そんな管理人にご自宅の月下美人の写真を贈ってくださった
ゆるぎさんに感謝申し上げます。
ネムさんの書かれた月下美人が素敵で、ちょっと気後れいたしますが、
えいやと出してしまいますね(苦笑)。
皆さまの素敵な帰山をまだまだお待ち申し上げております!
2015.10.06. 速世未生 記
さすがに長袖 ネムさま
2015/10/06(Tue) 22:17 No.99
こちらは日中22〜24℃くらいですが、朝は冷えてきました。
そちらは10℃切っているんですね。
でもその分紅葉黄葉が美しいでしょう(懐かしい〜)
お話の中は、まだ暑さの残る宵のようですね。
でも「天から見れば…」の言葉はシンとして、特にこの二人が言うと切なく重いです。
それでも一夜限りの花が「誇り高い貴婦人のよう」に見えるように、
懸命に生きる人々がいるから、王朝の盛衰の長短に関わらず、
一つ一つの国がかけがえのないものに、二人には見えるのかもしれませんね。
じんとくる「月下美人」のお話でした。また次のお題を楽しみにしています!
ご感想御礼 未生(管理人)
2015/10/07(Wed) 12:16 No.100
ネムさん>
そちらも長袖になったのですね〜。
週末に中心部の公園で開かれているお祭に行ってまいりました。
最終日で大盛況、日中なのでそれなりの気温だったのですが、発見してしまいました、
ダウンのベスト着用の方を。
大多数の北の国の住人はダウン着用は雪が降ってからでございます故、
観光客なのでしょうね。
ダウンのベストってそういう風に着るんだと目から鱗でございました〜。
悠久の時を生きる風来坊たちは、
限られた時を生きる市井の人々を眩しく見つめているのでしょう。
散るからこそ美しい一夜限りの花、けれど、
彼らこそが散らぬ花はないと肝に銘じているのではないかという妄想でございました。
ご感想をありがとうございました。
当地もすっかり長袖です〜 饒筆さま
2015/10/07(Wed) 22:39 No.103
十月に入ってまた一段と肌寒くなってきましたね〜(当地人の感覚・笑)
でも元気なお子ちゃまや若造たちはまだ半袖です。
日中の日差しはまだ強いんですよー(紫外線が・汗)
さて、麗しの月夜に咲き誇る月下美人に見入るお二方……なんて素敵なシーンでしょう。
国の興亡について語るとき、利広さんは冷静というか
あくまで第三者としてその状況や過程をつぶさに分析しているのに対し、
風漢氏からはどこか当事者的なシンパシーを感じるんですね……
自分も、いつか己の手で「滅亡」を引き寄せる者ですものね。
そのあたりの凄味が堪りませんね(キャッ)
きっと利広さんもその点では舌を巻いているんだろうなと思います
(そんな様子は一切見せないけれど・くつくつ)
感慨深いお話をありがとうございました。
寒暖差がキケンです ゆるぎさま
2015/10/08(Thu) 03:00 No.104
昼夜の気温差が服装を悩ませます。
あの写真がお役に立てたのでしたら幸いです。
お話を拝読したら、なるほど月下美人が十二国の国の姿写しに思えてきます。
風漢様の言のごとく、儚さとは遠い存在感ではあるのですが。
暗闇の中でもほの白く、少し癖のある強い香気で「妾はここぞ」と主張するがごとくで。
開いた時から終焉に向かっているはずなのに夜に咲き誇り。
朝気づいた時にはくったりと落ちている。
利広様の例えたとおりのようです。
ご感想御礼 未生(管理人)
2015/10/08(Thu) 23:37 No.105
本日の北の国、最低気温は10.5℃、最高気温は13.7℃、
台風崩れの低気圧が暴れまくり、物凄いことになっております。
絵描きの学校では裏手の街路樹が倒れ、どこかのトタン屋根が飛び、
警察がやってきたそうで。
さすがに寒くてストーブを点けようと思いましたが、タンクの元栓が閉まっておりました。
外は大嵐、タンクまで辿りつけそうもない……(苦笑)。
まだ点けるなというお告げでございますね、うん。
拙作にご感想をありがとうございました。
饒筆さん>
10月にまだ半袖の方がいらっしゃるのですね! 確かに日中は大丈夫なのかも……。
やはり、利広は王族ではあるけれど、王ではない。それが大きいのかもしれませんね。
玉座に坐り続ける以外に生き延びる道がない王とは違うのでしょう……。
深いお言葉をありがとうございました。
ゆるぎさん>
お呼び立て失礼いたしました〜。
今時期の昼夜の寒暖差はほんと服装に困りますよね〜。
どうぞ風邪など召しませぬように。
ああ、妄想満載で描いた月下美人が現実に即しているのなら嬉しゅうございます!
香りは調べても解らないのですよね〜。いつか本物を拝んでみたいものでございます。
素敵な写真をありがとうございました〜。