其の八「お前には言われたくない」@管理人作品第3弾
2015/09/13(Sun) 23:51 No.28
皆さま、こんばんは。いつも祭に拍手をありがとうございます。
台風17号の接近に伴い、毎日雨予報でございましたが、
4日目にして漸く少しだけ降りました。
結局、強風で街路樹が折れた程度で済み、ほっと安堵しております。
皆さまは大丈夫だったでしょうか。
本日の最低気温は13.9℃、最高気温18℃は午前0時でございました。
一雨ごとに寒くなる季節、木々の緑も色褪せてまいりました。
あっという間に9月も半ば、スローペースではございますが、
なんとか第3弾を仕上げました。よろしければご覧くださいませ。
いろいろ繋がっておりますが、どうぞご寛恕を!
※ 管理人の作品は尚陽前提でございます。
- 登場人物 尚隆・陽子・利広
- 作品傾向 ほのぼの?
- 文字数 1300文字
「帰山で十題」其の八
お前には言われたくない
2015/09/13(Sun) 23:54 No.29
「こんなところで会うかなあ」
楽しげに呼びかけられて、身を窶した延王尚隆は足を止める。振り返ると、身なりの良い旧知の若者が、にっこりと笑みを浮かべていた。尚隆は顔を蹙めて応えを返す。
「それはこちらの科白だ」
慶東国王都堯天。麗しき紅の女王のお膝元で、滅多に見ない人物と遭遇してしまった。尚隆の隣に立つ慶主は翠の瞳を大きく瞠って絶句する。南の大国奏の太子は爽やかな笑みを見せて口を継いだ。
「ここで会ったのも何かの縁だよ。夕餉でも一緒にどう?」
「――断るわけにはいかぬだろうな」
「無論だよ、風漢。訊きたいことが山ほどある」
天の配剤。
利広はきっと此度もそう言うのだろう。だから、尚隆は抵抗しつつもその誘いを呑んだのだ。景王陽子はただ不安げに尚隆を見つめていた。
利広に伴われて手近な飯堂に入った。風来坊の太子は手慣れた様子で滑らかに酒肴と食事を注文する。そして、楽しげに尚隆と陽子を見比べた。
常よりも多分に陽気な利広と他愛のない軽口の応酬を繰り広げる。尚隆は慶主の不安を慮っていた。この男と出会う場所は、いつも軋みかけた王国の首都。自国でめぐり会ったのならば、尚隆でも不吉に思うだろう。しかし。
山ほど訊きたいことがある、と言っておきながら、利広は世間話ばかりを続ける。そのうちに、慶主の緊張も解れていった。それどころか、景王陽子は最長命国の太子を絶句させたのだ。
騎獣は何か、という他愛もない問いだった。吉量も使ったけど、と首を傾げる慶主は、にっこりと笑ってさらりと告げた。使令だ、と。
「班渠なら隠形できるから厩に預ける必要もないし、脚も速いし、退屈な時は話し相手になってくれるし。諫言もされるけどね」
天衣無縫な女王は、その言で喰えない古狸をも圧したのだ。聞いて隠形した使令は押し殺した笑声を上げる。それは、いつぞやの意趣返しとも言えるだろう。尚隆も笑いを抑えることができなかった。そうして嫌な貌をする利広の肩を叩く。その様子を無邪気な女王だけが不思議そうに見やっていた。
やがて、散々飲み食いした風来坊は気が済んだらしく、二人を解放した。じゃあ、と手を挙げて去っていく利広の背を、陽子は複雑な貌をして眺めていた。
「――確かめに来たのかな」
風来坊の背が見えなくなった頃、慶主は小さく呟いた。何を、と訊くまでもない。景王陽子は、先日己を捕えかけた暗闇を払ったばかりだった。尚隆は軽く訊き返す。
「だとしたら?」
「――すごいね」
慶主は深い溜息をつく。尚隆は声を上げて笑った。
「無駄に長く生きていない、ということだ」
あれは化け物の部類に入る、と続け、尚隆は伴侶の細い肩を叩く。景王陽子はその化け物をあっさりと帰してしまった。毒気を抜かれた太子は、恐らく慶主の闇には気づいていないだろう。
天の配剤。
そんな言葉が胸を過る。尚隆は小さく首を振った。
(この出会いには、きっと意味があるんだよ)
風来坊の太子はそう言って爽やかに笑う。尚隆は苦笑を浮かべた。
「お前には言われたくない」
小さく呟くと、伴侶が怪訝な貌をした。なんでもない、と笑みを見せ、華奢な肩を抱き寄せる。そしてまた、失われずに済んだ賑やかな王都を気儘に歩き続けるのだった。
2015.09.13.
後書き
2015/09/13(Sun) 23:59 No.30
「帰山で十題」其の八「お前には言われたくない」をお届けいたしました。
本来こちらが「こんなところで会うかなあ」になるはずだったのですが(苦笑)。
いろいろ繋がりすぎていて祭に出していいものかどうか迷いましたが、
まあ、さらりと読み流してくださいませ(伏礼)。
皆さまの素敵な帰山をお待ち申し上げておりますね!
2015.09.13. 速世未生 記
なるほど ネムさま
2015/09/15(Tue) 22:06 No.39
街路樹が折れただけ、ですか… 本当にそれ以上無くて良かったです。
こちらも地震で棚の上の西郷どん人形が落ちた位(しかも無事)で済みました。
でも、どこかで“あの”コンビと出会いそうで怖いです(^^;)
慶もいろいろあったようですが、それを跳ね飛ばす底力があったんですね、さすが!
陽子を挟んでの微妙なやり取り、楽しませて頂きました!
お体、ご無理なさいませんよう つくしさま
2015/09/16(Wed) 14:15 No.42
第3弾、楽しませて頂きました。
十二国一と言われる賢君(?)尚隆と、
十二国一長命な王朝の屋台骨の一角を担う利広を魅了してやまぬ陽子。
最強女王ですね〜!
未生さま、ご体調が思わしくないご様子。
季節の変わり目、どうぞご自愛ください。
天の配剤…?(笑) 饒筆さま
2015/09/17(Thu) 00:10 No.44
原作「帰山」でも利広さんは勢いのある慶(新景王)を買っていましたもの、
その後も気になってちょこちょこ通っていたのかもしれませんね。
傾いた国ばかり巡っていても気が滅入りますもんね。
先日も申しましたが、今回は「これで顔を憶えてもらった♪」
とばかりに喜んで帰ったのかも(ぷぷぷ)
それもこれも陽子さんの魅力のせいですね〜(仕方ありませんね、殿・笑)
それにしても急速に季節が変わっておりますね。
未生さま、どうぞご自愛くださいませ(私も秋バテ気味です……)
ご感想御礼 未生(管理人)
2015/09/17(Thu) 16:06 No.47
今朝の最低気温は15.5℃、最高気温は23.1℃でございました。
一度11℃を体感してしまうと暖かく感じてしまいます(苦笑)。
地元の山には初雪も降りましたしね〜。
これからどんどん秋が深まっていくのでしょうね。
拙作にご感想をありがとうございました。
ネムさん>
そうなんです、買い物から帰ってしばらくしてから、
道路交通情報で街路樹が倒れたため片側交互通行とか言っていてびっくりいたしました。
さっき通ったばかりなんですけど!
慌てて見に行ったらぼっきり折れてましたね〜。
流石に折れた部分は撤去済でしたが。後日、残った部分もなくなっておりました。
ネムさんのお人形もご無事で何よりでございます。最近朝方の地震が多いですよね。
慶も色々ありました。かの方も奔走いたしました。
ほっと一安心したところで遭遇したら嫌な顔もいたします(苦笑)。
こちらも何事もなくてよかった、ということで。
つくしさん>
いや、ほんとに古狸ふたりを天然で手玉に取る最強女王さまでございます。
お楽しみいただけて嬉しゅうございます。書いていて私も楽しゅうございました。
体調をご心配くださりありがとうございます。実は今日も沈没しておりました(苦笑)。
大分良くなったと思いたい(笑)。
饒筆さん>
そうそう、気になるのでそこそこ見に来ていたり(笑)。
頃合いをきちんと問題なく越えたように思えて安堵したことでございましょう。
見に来られた陽子主上もフクザツな心持でございます(苦笑)。
あらら、秋バテですか。どうぞご自愛くださいね〜。
おじゃま虫だ(笑) 瑠璃さま
2015/09/21(Mon) 22:10 No.57
いや あ、尚隆が優しいなあ。陽子さん限定なんだろうけど(笑)。
心底、嫌そうな尚隆が面白いです。
そちらでは風が強かったんですね。大きい被害がなくて何よりです。
そしてやっぱりそちらの最高気温はこちらの最低気温ですわ。
ご感想御礼 未生(管理人)
2015/09/22(Tue) 18:16 No.62
本日の最低気温は14.9℃、最高気温は24.5℃でございました。
一日の寒暖差が大きくなってまいりました。ここから黄葉が一気に進むかな?
瑠璃さん>
はい、お邪魔虫でございます。煩いけれど振り払えません。
嫌だけど付き合うしかない(笑)。
やはり南国は暖かいですね〜。こちらはもう衣替えもほとんど済んでおります。
街を歩く制服組も真っ黒(笑)。
絵描きの遠征を応援に行ったのですが、東の連中はまだ夏服で笑えました。
遠征先は朝晩10℃以下だったんですよ〜。
絵描きは冬服でも寒いと申しておりました(笑)。