其の九「放浪」@管理人作品第11弾
2015/10/15(Thu) 18:08 No.135
皆さま、こんばんは〜。いつも祭に拍手をありがとうございます。
本日の北の国、最低気温は6.3℃、最高気温は13.4℃でございました。
最近、街を歩く人々の服装が様々でございます。
制服のみの学生さん、ストールのみの方、薄いコートの方、がっつりダウンの方等々……。
着る物に困る季節と相成りました。
さて、祭最終日、管理人は最後の御題を仕上げました。
半月延ばして何とか完遂でございます。万歳! それではどうぞ。
- 登場人物 尚隆・利広
- 作品傾向 ほのぼの?
- 文字数 1224文字
「帰山で十題」其の九
放 浪
2015/10/15(Thu) 18:11 No.136
国がほしいか、と訊かれて、ほしい、と答えた。浜で拾った子供に託されたものは、何もない荒れ果てた国であった。
丘の上の屋形にいることはほとんどなかった。いつも城下をほっつき歩いていた。小さな湾と小さな街、湾の先の小島がささやかな所領、それらを全て失って得たものは、荒廃しきった広大な国土。無から一国を興す。大任だが遣り甲斐はある。
始めは居城と定められた玄英宮の中を歩き回った。それから、城下の関弓に降りた。そして、首都州である靖州を見回った。それも終わると他州にも足を伸ばした。そのうち、先進の他国をも検分するようになった。
何も知らぬから、己の眼で見て回った。何もない地が緑に覆われていく様は心地よかった。緑が広がるごとに人が国に戻ってきた。里が、廬が、更には街が増えていった。しかし。
こちらの世界は、己の国が整えばお終いではなかった。他国から攻め込まれることはないが、王が斃れれば地が乱れる世界、周辺の国が荒れれば妖魔や災害を避けるために荒民が高岫を越えて押し寄せる。国が富むほどに荒民対策が必要になった。軋みかけた国を巡るようになったのは、心積もりが必要になったからだ。その頃には出奔が常套となっていた。
城を抜け出して、尚隆は荒れ始めた国の首都を歩く。身を窶した他国の王に気づく者はいない。富んだ国では心配なかった宿探しが、荒れた国では難しい。稀な騎獣は狙われやすいのだ。無論、
騶虞は賢く勇猛だが、悶着を引き起こす元になったこともあるので、用心するようになった。
その日も厩と厩番がしっかりしている舎館を探し当て、腰を落ち着けたところだった。そこで、同じく騶虞を連れた若者に出会ったのだ。
「騶虞か。好い騎獣を持っているな」
「これは借り物だよ。そう簡単に手に入るものじゃない」
年の頃は二十と少しだろう若者は、突然話しかけられたにも拘らず柔和に笑う。借り物だ、という割に、身なりは立派な騎獣に相応しい仕立てのよいものだった。
「騶虞が分かるんだね」
「俺の騎獣もそうだからな」
「へえ」
そんなふうに会話が始まって、酒を酌み交わした。物怖じしない若者は、年の割に旅慣れている。国々の名産にも詳しく、注文する酒肴も名だたる珍味が多かった。どこぞのお坊ちゃんなのだろう、と当たりをつけつつ、己も人には言えぬ身分を持つ故、詳しく訊ねることはしない。博識な若者と談笑しているうちに夜は更けていった。
「――よい旅を」
笑みを湛えてそう言う若者に片手を挙げて、尚隆は酒場を後にした。一夜の暇潰しはなかなかに楽しかった。一期一会、これも旅の醍醐味なのだろう。その時は本気でそう思っていた。それから悠久の時が過ぎ
て――。
「あれ」
今や、「こんなところ」で会うのが定石になった腐れ縁の風来坊。もう互いの正体も、訊かずとも知っている。数少ない時を渡る同胞と、顔を合わせれば酒を酌み交わす。それは、放浪の時を重ねる楽しみの一つになっている。無論、尚隆がそれを利広に告げることはないのだった。
2015.10.15.
後書き
2015/10/15(Thu) 18:15 No.137
「帰山で十題」其の九「放浪」@管理人作品第11弾をお届けいたしました。
実は全部書けるとは思っておりませんでした(苦笑)。
奇跡でございます。天帝への祈りは届いた……!
かの方と利広の初対面を書いてみました。
なんてことのない小品ではございますが、
少しでもお楽しみいただけると嬉しく思います。
これから晩御飯を作ります。後程レスしに戻ってまいりますね。
皆さまの素敵な帰山、まだまだお待ち申し上げておりますよ〜!
2015.10.15. 速世未生 記
ありがとうございました! 瑠璃さま
2015/10/15(Thu) 21:56 No.139
コンプリート、おめでとうございます!
未生さんの怒涛のラストスパートにまだ追いついてはいないのですが……。
各地を放浪しつつ、それなりの時を経てまた出会い酒をかわす。
長い時を生きる仙ならではの、
そしてお互いにとってなくてはならない楽しみなんでしょうね。
互いの国で帰りを待つ人たちにとっては、少々頭の痛いことなんでしょうけど(笑)。
今回も楽しいお祭をありがとうございました。
追いついていない分はゆっくり楽しみたいと思います(笑)。
おつかれさまでした!
お疲れ様です! ネムさま
2015/10/15(Thu) 22:51 No.140
10話達成、おめでとうございます。
これだけ風漢と利広の話が並んでいると、壮観です。
何げなく出会い、別れる二人。
ドライなようで、親しみのある、こういう関係はまた好いですね。
ラストはとてもこのコンビらしいお話でした。
まだ読み終えていない話もありますが、
ひとまずは楽しいお祭りを開催して下さった御礼を申し上げます m--m
ありがとうございました 饒筆さま
2015/10/15(Thu) 23:55 No.146
毎回申しておりますが、楽しいお祭りの閉幕は淋しいですね……(BGM蛍の光)
今回は特にイケメン成分をたくさん摂取できて(心が)潤った気がします(笑)
重ね重ね十周年おめでとうございます&帰山祭の開催ありがとうございました!
そしてラストを飾るお話が「出会い」だなんてオツですね♪
現代ならどこぞのバーの止まり木で「よぉ」なんて挨拶する仲なんでしょうね。
渋かっこいいなぁ。
陽子さんにはそのうち艶やかなバーのママを務めてもらいましょうか
(あはは似合わない)
爽やかな完走、お疲れさまでした。
お疲れ様でした 晋青緑さま
2015/10/16(Fri) 18:58 No.148
お祭りが終わるのは寂しいですね。
今回は殆どロム専で一度しか投稿できず申し訳ありませんでした。
何とかギリギリ挨拶に来れて良かったです。
(某所の呟き見て昨晩のウチに何か〜と思ったのですが間に合いませんでした・汗)
いつも楽しいお祭りを開催して下さって有難うございます。
お疲れ様でした〜^^
皆さま、ありがとうございました! 未生(管理人)
2015/10/16(Fri) 23:45 No.152
皆さま、ラスト作品にご感想をありがとうございました!
瑠璃さん>
またも怒涛の更新で申し訳なく。残りはお時間おありの時にでもご覧いただければ。
いや〜ほんと完遂できてよかったです!
これほど長く旅を続ける者は他にいないという連帯感が二人にはあるのだろう、
という妄想でございました。
ほんと、国で待つ者にとっては頭痛の種でしょうけどね〜(笑)。
こちらこそ祭にご参加くださり、また拙作をご覧くださりありがとうございました!
ネムさん>
何とか全部書けました。書き残した年の悔いを思い出しまして(笑)。
お互いなかなか本音を語りたがらない帰山コンビを書くのは大変でしたが
楽しゅうございました。お楽しみくださりありがとうございます!
またも怒涛の更新で申し訳なく。お暇ができましたら残りもご覧くださいませ。
祭にご参加くださり、また拙作をご覧くださりありがとうございました〜。
饒筆さん>
とうとう「蛍の光」がかかってしまいました(笑)。もう、饒筆さんたら素敵。
祭をお楽しみくださり、そして惜しんでくださりありがとうございます。
10年やってきた甲斐がございます〜。
「帰山」で出会いが軽く触れられていたので、軽く書いてみました。
お楽しみいただけ嬉しく思います。
現代なら、出張の度に飲み屋で出会ってしまう関係かな〜なんて思います。
なんとか完遂できました。
ご参加くださり、また拙作をご覧くださりありがとうございました〜。
晋さん>
ガタッ! 間に合わない何か、出来上がったら跡地に飾りますよ!
是非是非仕上げてくださいね〜。
ご参加くださりありがとうございました!