「帰山で十題」 「管理人作品」 「祝10周年帰山祭」

其の十「窓の中」@管理人作品第6弾

2015/10/12(Mon) 18:02 No.111
 皆さま、こんばんは〜。いつも祭にレス及び拍手をありがとうございます。

 本日の北の国、最低気温は9.8℃、最高気温は15.4℃でございました。 本格的な冬の到来を前に冬小物を洗濯いたしました。 なんでこんなにマフラーがあるの(苦笑)。
 とうとう天気予報にも雪マークがつきました。 さすがに明日はストーブを点けなくちゃダメかしら。 10月半ばまで焚かない秋は初めてかもしれません。

 さて、祭もあと4日。管理人は漸く七つ目の御題を仕上げました。 よろしければご覧くださいませ。

※ 管理人の作品は尚陽前提でございます。

「帰山で十題」其の十

窓の中

2015/10/12(Mon) 18:04 No.112
 旅の終いには、いつも手近な凌雲山に登る。それは、王都隆洽を空の高みから見渡すためだった。そして、今はもうひとつ理由がある。海の上に出るためだ。

 雲海の上を飛び、風来坊の太子は隆洽山清漢宮を目指す。諸国を一巡りして、十二分に検分してきた。旅を反芻し、利広は薄く笑む。今回は、途中で久々に北の風来坊にも遭遇した。海の上を飛ぶことができる、数少ない同胞でもある男に。

 雲海の上を飛んだことがあるか、と風漢に訊ねたのは、単なる好奇心からで、特に理由があるわけではなかった。無論、高岫を越えて隣国に住まう伴侶を訪ねる男は、素直に答えたりはしない。しかし、あまり見せることのない穏和な微笑が物語っていた。窓から窓へ、愛しい女に会うために海の上を飛んで行くのだ、と。

 愚問と知りながら、そんなことを訊いてしまったのは、いったい何故なのだろう。海の上には王の居城と州城、それに禁苑の凌雲山があるばかり、見るべきものなど何もない。それなのに、こうして雲海の上を行く。利広はそんな己を省みたくなったのかもしれない。

 海に浮かぶ島々のような清漢宮が見えてきた。月光に照らされた壮麗な宮城、その奥にある後宮が奏王家の住まいだ。典章殿の露台に騎獣を降ろし、利広は窓の中を見やった。灯りが点された室内には、いつものように両親と兄妹、そして宗王の麒麟が揃っている。利広は唇を緩めた。

 駆り立てられるように旅に出て、常なるものと常ならぬものを見て回る。危険な目に遭うこともあるが、そのとき、故郷や家族が胸を過ることはない。しかし、こうやって窓の中にいつもの光景を見ると、己は戻ってきたのだ、と安堵する。母の小言を聞く貌が嬉しそうだ、と妹に指摘されたこともあった。そして、また心に浮かぶ、風漢の穏やかな笑み。

 あんな貌を、いま己もしているのだろうか。

 利広は苦笑する。そう、海の上を飛ぶのには理由がある。見るべきものはないが、見たいものがあるのだ。それは、窓の中にある、家族が集う穏やかな日常。

 咲いては散る花のように、興っては消えていく他国の王朝。この世に散らぬ花はなく、また死なぬ王朝もない。いつかはこの国も終焉を迎える日が来るのだ。沈む他国を見る度に肝に銘じるその事実。だからこそ。

「――相変わらず、みんな揃っているなあ」
 いつもの科白を言いながら、利広は窓の中へと入っていく。家族は一斉に振り向いた。いつものように、様々な小言が浴びせられる。利広は笑みを湛えて受け応えるのだった。

2015.10.12.

後書き

2015/10/12(Mon) 18:11 No.113
 「帰山で十題」其の十「窓の中」をお送りいたしました。 何気に其の一「窓から」の後の利広でございます。

 この御題はコメントも一緒にご投票いただきました。

 「死なない王朝はない」 ---利広が確認のために戻ってくるところ。自問自答。

 なんとも妄想を誘うお言葉でございました。昇華できて嬉しく思います。 ありがとうございました!

 祭も終盤でございます。皆さまの素敵な帰山、まだまだお待ち申し上げておりますよ!

2015.10.12. 速世未生 記

時間との戦い Hさま

2015/10/13(Tue) 20:51 No.114
 のこのこと失礼いたします。実は「窓の中」を所望したものでございます。

 「窓から」で「窓」は出て行く場所でもあるのだ、 と認識を新たにした時には少し戸惑いました。 正直申し上げますと少し、ではないですね、大層戸惑いました。 そう、風漢の存在が大きいですね。 「窓」は利広専用だと思っていたにも等しかったものですから。

 いつもの科白をより強く感じながら読ませていただきました。 ありがとうございました。

 時間との戦いはパソは9時までという自分との戦いでございました(笑)。 これだけは何とか、と思っておりましたのでコメントできて嬉しいです。 残りもがんばってくださいませ。では!

なるほど ネムさま

2015/10/13(Tue) 21:54 No.115
 「見たいものがある」から何もない雲海の上を飛ぶ… 何となく納得しますね。 そして利広が「窓」から入るのは、まず「窓の中」を確認したいからなのかと、 読んでいて頷きました。 (ドアの陰から覗く手もあるけど、あまり様にならないですものね ^^;)
 読んでいるうちに ほっこりした気分になりました。

 とうとう雪だるまさんが登場されたとか。 でも未生さん家の窓の中も暖かくされているのでしょうね。 お忙しいでしょうけれど明後日まで楽しませて頂きます。

はや冬ですか! 饒筆さま

2015/10/14(Wed) 01:24 No.123
 ニュースで既に積雪しているところもあるとお聞きしました。 冬の訪れが早いですね〜どうぞご自愛くださいね。
 冬支度をする度にマフラーの本数が増えていることに首を傾げる件、 確かにウチでも起こります。なんで新しいのを買っちゃうんでしょうね〜?(笑)

 さて、利広さんの「ただいま」スタイル…… そうですね、利広さんってご家族の中でも立ち位置がオンリーワンなので、 きっと「家族の愛し方」も少し違うんだろうなぁと思いますね。
 どこか客観的というか。すぐ傍で肌で感じる直球的な愛でなはないというか。 それでもこのご家族の結束力、 全員一丸で未来を切り拓くパワーにはほとほと感服いたしますね。 どうぞ末永く仲良くお幸せに……!
 ほのぼの愛おしい一コマをありがとうございました。

ご感想御礼 未生(管理人)

2015/10/14(Wed) 20:29 No.126
 拙作にご感想をありがとうございました〜。

Hさん>
 おお、ご登場ありがとうございます。
 そ、そうですか、窓は利広専用(苦笑)。 いや〜私「窓から」でナチュラルに出ていく尚隆と入ってくる利広を セットで妄想してしまったもので。
 パソは9時までとかかなりな時間制限の中でのご感想をありがとうございました!

ネムさん>
 「窓から」及び「窓の中」を書くにあたって原作の凌雲山の描写を漁り、 かなり混乱いたしました。 「図南」では上から出してもらっているので当然上に着きますが、 「帰山」では普通に下にいたのに上から帰っているので……。 窓の中を見るためと妄想が帰着してほっと安堵でございました(苦笑)。 ほっこりしていただけてよかった!
 ストーブを点けましたので煮込み料理が増えております。あったまりますよ!

饒筆さん>
 既に氷点下を記録した地域もございます。ひゃあ!  今朝は恐る恐るカーテンを開けました。真っ白じゃなくてよかった〜。
 マフラーは10本洗濯いたしました。3人なのですが(苦笑)。 制服用と私服用は違う、と言われてしまえば仕方ないですよねぇ。
 ずっと一所にはいられない風来坊、 けれど、故郷や家族愛はきちんと持っているのだと思います。 小言は言っても出してくれる家族は有難いものなのでしょうね〜。
背景画像「吹く風と草花と-PIPOの部屋」さま
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