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御題其の三

利浩対決

「いったい何を考えていらっしゃるのです?」
「君はどうしてそんなに怒っているの?」
 利広は柔和な微笑を目の前の男に返す。その、涼しげな顔の裏に潜むもの。それが利広には透けて見える。
「私は別に何もやましいことなんかないんだけれど」
「それでは、何故……」
 無論、やましいことなどひとつもない。それは必然なのだから。それでも言い募る男に問いかけた。
「それは、君が気にすることなの?」
 眉を顰める男に、利広はくすくすと忍び笑いを漏らす。
「──君は、己を分かっていないね」
 そう言って利広は沈黙する男に背を向ける。そう、彼は己を分かっていない。──己が「男」であることを。

「──それが分からない者には、私に問う資格はないよ」

 利広は薄く笑む。その独白は、暗い眼をして佇む男には聞こえなかった。

2006.04.12.
 先日リクをくださったKさまから、またリクをいただきました。 「利浩対決」利広視点だとどうなるだろう、と。 早速もやもやしてしまい、つい朝から書き流してしまいましたが……。
 利広、なんだか物凄く黒いような気がします。 あれ……。なんだか利陽を書きたくなってきました。ま、ますい、「黎明」が……。

 もう、お解かりかもしれませんが……このお話は実は「夢幻夜想」の一節に入るものでございます。 「来訪」連作の後くらいでしょうか。いつかちゃんと書き留めたいです。(2007.02.11.追記)

2006.4.12.  速世未生 記
(御題其の三)
背景画像「幻想素材館 Dream Fantasy」さま
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