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御題其の十

女王さまの想い人

「ねえ、祥瓊。陽子ってどうして綺麗にしたくないのかしらね?」
「知るもんですか。もう、いつもいつも逃げるんだもの」
 襦裙を手に握る祥瓊から、国主景王は今日も逃げ切った。鈴の素朴な問いに、祥瓊は憮然とする。鈴はぽつりと続ける。

「綺麗にして見せたいひとでも、できるといいのにね」
「──」

 祥瓊はぴたりと足を止める。鈴はその背にぶつかり、小さく声を上げた。
「痛〜い! ──どうしたの、祥瓊」
「鈴……、陽子が、綺麗にして見せたいひとって、想像できる?」
 鈴も足を止めて考える。頭に浮かぶ情景は──。宰輔景麒に諫められ、眉間に皺を寄せて言い返す陽子。冢宰浩瀚を出し抜こうとして、返り討ちに遭う陽子。左将軍桓魋かんたいで、そんな「すとれす」を解消する陽子。大僕虎嘯をだまくらかして、王宮を抜け出す陽子。そして、延王尚隆と、白熱した中身のない論戦を繰り広げる陽子──。

「──あたしには想像できないわ」

 想像するだけでくらくらする。鈴は頭を押さえながら答える。祥瓊は、黙して力強く頷く。そして二人は大きく溜息をついた。

2006.04.25.
 私は「黎明」を書きたいんです!
 それなのに、手が! この手が! 御題を書いてしまう〜!
 金波宮の日常、書き始めたら止まらない……。 この調子で浩瀚物を書けるといいのだけれど。

 このお話を読んだ後に 「所顕」を読むと面白い、というご感想をいただきました。 よろしければどうぞ読んでみてくださいませ!  別窓開きます。(06/05/20追記)

2006.04.25.  速世未生 記
(御題其の十)
背景画像「幻想素材館 Dream Fantasy」さま
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