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御題其の二十一

かの方のある決心

 つややかな緋色の髪が靡く。振り返る娘は、鮮やかな笑みを見せる。眩しげに見やると、輝かしい翠玉の瞳が喜色を湛えた。その名を呼び、華奢な身体を抱きしめようと手を伸ばす。悪戯っぽい笑みを浮かべ、娘は身を翻す。追いかける男をからかうように。そして、男の名を呼び返す。

「──尚隆」

 「ショウリュウ」と呼ばれたような気がする。お前が、俺を、音で呼ぶのか。少し意外だった。

「陽子……?」

「寝惚けてんじゃねーよ。起きろ、尚隆!」
 傍近くで響き渡る苛々とした呼びかけ。それはどう考えても愛しい伴侶の声ではなかった。尚隆は目を開ける。そこには己の半身の苦い顔があった。
「──六太」
「──仕事をしろ!」
 目を落とすと、書卓には、山と積まれた書簡。六太は近くの卓子の上に座りこみ、腕を組んで尚隆を睨めつけている。
「──せっかく、よい夢を見ていたのに」
「知るか、そんなこと。さっさと仕事を片付けやがれ!」
 六太は尚隆の耳許で怒声を上げる。思わず耳を塞いで嘆息した。そして尚隆は気づく。──今日の見張りは六太だけだ。口許を歪め、延王尚隆はにやりと笑う。

 ──そろそろ、この缶詰状態も終わりにしよう、と。

2006.06.09.  速世未生 記
 ああ、また書き流してしまった……。「刻印」直前の尚隆と六太です。 「刻印」をほぼ書き上げて、ちょっと解放されてます〜。 軽くてごめんなさい!  しばらくは、大人しくお仕事してたのでしょうが、飽きてきたようですね。

2006.06.09.  速世未生 記
(御題其の二十一)

ひめさま

2006/06/09 19:11

 こんばんは〜〜
「かの方のある決心」・・・読ませていただきました。

「そろそろ、この缶詰状態も終わりにしよう」
・・・

 これって、尚隆さんの言葉?それとも管理人さんの?  尚隆さんを借りた管理人さんの言葉、と取れるような・・・。
 なんかね、読ませていただいているこちらが臣下で、「しっかり働け」って 言っているような感覚を覚えるのですが・・・。
 ウフフ、臣下は強いなぁ。飽きずにお仕事してくださいね、臣下のために。

けろこさま

2006/06/09 23:00

 こんばんは。
 「刻印」のめどが立った解放感に浸ったお題ですね〜。
 フフフフッ…「黎明」終了から今回の「刻印」書き上げの間に感じた煮詰まり感から、 「しばしの」解放感を存分に楽しんでください。

未生(管理人)

2006/06/10 04:34

 ああ、寝て起きたら気づきました!
 「缶詰」! ──尚隆は知らないですね!
 やはり書き流すとダメだな〜と反省しきりです。

ひめさん>
 というわけで、尚隆ではなく、私の言葉でございます〜。 頑張って書いてますので許してください……。(へこへこ)やっぱり弱いかも。

けろこさん>
 はい〜、やっと解放されそうです。(断言できないのがツライところ……) かなり煮詰まっておりましたので! お気遣いありがとうございます!

 メッセージ、ありがとうございました!
背景画像「幻想素材館 Dream Fantasy」さま
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