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御題其の二十三

横文字 (1)

 さらりと書き流された横文字を見て、浩瀚は主に問うた。
「──蓬莱の文字でございますか?」
「ん? ──ああ、これか。英語っていう蓬莱の異国の文字だよ」
 主は気まずそうに答えた。浩瀚は笑みを浮かべる。誰にも気持ちを知られたくないとき、主はその文字を書く。独り言のように、溜息のように。
「なんとお書きになったのですか?」
「──まあ、いいじゃないか」
 少し顔を赤らめる主は、少女らしかった。浩瀚は小さな声で問いかける。
「──恋文、ですね」
「──っ! ち、違うよ!」
 狼狽える主はもっと頬を朱に染めた。浩瀚は忍び笑いを漏らす。主は可愛らしく頬を膨らませ、短い言葉を書き綴る。
「それは、私の悪口でございますね」
「──よく分かったな」
「お顔がそう語っておられますよ」
「──お前には敵わないなあ」
 そう言って肩を竦め、主は花のような笑みを見せる。

 ──そんな主上に、私は敵わないのですよ。

 浩瀚は胸で呟き、主に微笑を返した。

2006.06.20.
 「刻印」を書きながら、どうにも詰まり、書き流した小品です。 懸案の横文字は陽子サイドに書こうかな〜。(拍手其の八)

2006.06.06

「拍手」更新したので、御題に移しました。金波宮の日常、案外平和そうですね。

2006.06.20. 速世未生 記
(御題其の二十三)
背景画像「幻想素材館 Dream Fantasy」さま
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