御題其の二十五
内緒のお話
延王の御前を辞して、鈴は陽子とともに回廊を歩く。付近に誰もいないことを、鈴は密かに確認した。そして。
「──真の御名を呼んでいるのね」
鈴はそっと陽子の耳に囁いた。案の定、陽子は耳まで赤くなった。羞じらって固まってしまった陽子の肩を、鈴は笑みを浮かべて叩く。
「素敵なことじゃない。あの方は、お喜びだったわよ」
「──からかわないでくれよ、鈴」
まだ鈴がいるとは思わなかったんだ、と陽子は小さな声で言い訳した。いつも颯爽と漢前な姿を見せる陽子のその様は、驚くほど可愛らしい。鈴は思わず笑みを零す。陽子はますます赤くなった。
「──鈴」
「分かってる」
心配そうに上目遣いに見つめる陽子。鈴は片目を瞑って頷いた。伴侶の前で見せる可愛らしい顔は、皆には内緒。ただでさえ公にできない恋なのだ。これ以上陽子に心労をかけはしない。
「陽子」
「──何?」
「──ううん、呼んでみただけ」
怪訝な顔をする陽子に、鈴はもう一度笑みを贈る。陽子は陽子。景王であっても、鈴の大切な友達。陽子は鈴に鮮やかな笑みを返す。
「鈴」
「──何?」
「──ありがとう」
鈴の心の声が聞こえたかのような、その応え。嬉しくなった鈴は、陽子の肩をぎゅっと抱きしめて、囁いた。
──ずっと、友達よ。
──うん、ずっとね。
陽子も小さく答えた。二人は、顔を見合わせる。そして、にっこりと笑みをほころばせた。
2006.06.23.
たまたま「名前」を読み直してしまいました。
そしたら、鈴が語り始めました。なんともほのぼのなお話をしてくれました。
嬉しくなって纏めてみました。
今朝書いた尚隆のお話が明るくなかったので、その反動かもしれません。
2006.06.23. 速世未生 記
(御題其の二十五)
ひめさま
2006/06/23 14:51
イヤ〜〜〜ン
なんともホニョホニョですね。
あ、こんにちは。
時にはいたずら心を鈴がのぞかせ、「な・・」
とか言ってからかってみるのもありにしませんかぁ?
もちろん陽子と二人だけの時に、ですけどね。
けろこさま
2006/06/23 22:57
未生さま、こんばんは〜。
イヤ〜、顔がフニャ〜ンと緩んでしまいました。
「墓穴」で漢前陽子に落とされかけた(笑)鈴にとって、
乙女な陽子は本当に可愛らしく映ったことでしょうね。
乙女な陽子見たさに、しばらくからかいのネタにしてたりして…
後半の二人は(実年齢無視して)、本当に十代の少女達だわ〜v
未生(管理人)
2006/06/24 05:02
ひめさん>
ホニョホニョでしたか(笑) 楽しんでいただけて、嬉しいです〜。
あえて「名前」を呼ばない慎ましやかな鈴でございます。
言わずに「目でからかう」日々が続くことでしょう……。
けろこさん>
フニャ〜ンでしたか(笑) 喜んでいただけて光栄でございます〜。
「漢前」と「乙女」の両面を知る鈴は、最強の友になったりすることでしょう〜。
なんだか「青春」してますよね。
メッセージ、ありがとうございました!