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御題其の二十八

乙女の本音

「──もう、戻ってこないかもしれない、と……思うことは、ないの──?」

 祥瓊は泣きそうな顔で、そう問うた。陽子は微笑する。心配、してくれているんだな。でも──。
「ない、と言ったら、嘘になるかな。でも、いいんだ、それでも。 あのひとが、幸せに、生きていてくれれば」
 陽子は正直に答えた。あのひとを見送るたびに、今度は、いつ会えるのだろう、と思う。もう、会えないかもしれない、と思うこともある。切なくて、悲しくて、泣きたくなる。
 けれど、あのひとが陽子を切実に求めるのは、瞳に隠す昏い闇が濃くなるとき。灯台を目指す船の如く、あのひとは陽子のもとに現れる。あのひとが現れないときは、陽子を必要としないとき。
 あのひとが幸せならば、会えなくても我慢できる。辛い気持ちを抱えるあのひとを望んでいるわけではないのだから。
「──」
「自由な風に、憧れてるよ、いつも」
 あのひとの明るい笑みを思い浮かべ、陽子は微笑する。気儘に振舞いながら、約束を違えることのない、あのひと。──できない約束を、決してしない、あのひとが、好き。
 話をしているうちに、泣きそうだった祥瓊の顔が、どんどん歪んでいく。そして、とうとう陽子の肩をぎゅっと抱きしめて、泣き出した。
「──祥瓊? どうしたの? 祥瓊──?」
 気の強い祥瓊の涙に、陽子は驚いた。祥瓊は激しく首を横に振り、黙して泣き続ける。その背に手を回し、そっと撫でた。柔らかく、温かい、華奢な身体。そして、己のためには泣かない、祥瓊のその涙も温かい。──陽子は、嬉しくなった。
 その気持ちを伝えたら、祥瓊は花のような笑みを見せた。そして、友達だからね、と言ってくれた。友達がいてくれるから、伴侶と会えなくても、我慢できるのかも。そう思うと、陽子の心は、ほんわかと温かくなった。

2006.07.14.
 「黄昏」を書いていたら、陽子が突然語りだしました。 なんだか、健気で、泣きたくなりました。祥瓊がいてくれて、 ほんとによかったと、私も思います。
 あんまり書くと、尚陽ならぬ祥陽に走りそうでコワイので この辺で止めておきます……。
 この本音、尚隆が聞いたら、きっと怒るだろうな〜。

2006.07.14.  速世未生 記
(御題其の二十八)

ひめさま

2006/07/14 23:23

 こんばんは。

「私はあのひとが好きで、あのひとは私を求めている。」

 「憧憬」での陽子の言葉ですが、「あのひとも私を好き」とはならないところ、縛らないところ、 「風」と現わされるところ・・・・・・
 「包容の境地」なんですねぇ。
 ホントに陽子は健気ですね。
 ウチは「空気」くらいには感じてはいるけど (感じてないってことかも?)「包容の境地」にはとてもとても・・・・・
 さすがに生きてる時間が短いですからね(?)
 祥陽も時にはよろしいのでは・・・・?

未生(管理人)

2006/07/15 04:13

 ひめさん、いらっしゃいませ〜。
「私はあのひとが好きで、あのひとは私を求めている」──お気づきいただいて嬉しいです。 決して「あのひとも私を好き」にならないところが私の「萌え」ツボなのです〜!  そして、実は「陽子苛め」も「萌え」ツボかも……。ああ、石を投げないでくださいぃ〜〜! 
 でも、うちの陽子さんは、かなり打たれ強いので、そうそう作者を喜ばせてはくれません。 あ、また言っちゃった……。
 尚隆至上の私としては、陽子には尚隆を「風」のまま、あるがままに受け入れ、 「包容」してほしいのです。私には、できないことだからかもしれません……。
 祥陽、OKですか!? いやあ、泣いてる祥瓊に、私がクラっとしてしまいましたので!  ま、まずいかも……。
 メッセージ、ありがとうございました!
背景画像「幻想素材館 Dream Fantasy」さま
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