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御題其の三十

かの方の土産

「──土産だ」
 尚隆は満面の笑みで伴侶に土産を差し出した。しかし──。

「これ、何?」

「──お前のほうが、よく知っているのではないのか?」
 訝しげに陽子はただ一言問う。尚隆は困惑気味に問い返す。
「──何でこんなものを、あなたが持ってくるの?」
「それを俺に問うのか?」
 眉間に皺を寄せて更に問う陽子。尚隆はますます困惑した。これを持っていけば喜ぶ、六太はそう言っていたはずなのに。
「──しかも、開いてるし」
「それは……」
 咎めるように尚隆を見つめる陽子の顔が大きく歪んだ。何故、そんなに機嫌を斜めにするのだ? 尚隆がそう口に出そうとしたとき。
「──っ!」
 陽子はいきなり吹き出した。そのまま声を殺して笑い出す。尚隆はわけが分からず、首を捻った。陽子は笑いすぎで涙が滲んだ目を上げる。そして、尚隆の耳許で囁いた。

「──六太くんから、取上げたりしたら、だめじゃないか。桃缶、私が開けたかったのにな」

「──人聞きの悪いことを。取り上げたわけではないぞ。置き去りになっていただけだ」
 尚隆は顔を顰めて言い訳した。陽子はくすりと笑う。
「そういうことにしておこうか。ありがとう。──それに、よいものを見せてもらった」
「よいもの?」
 片眉を上げて問い返す尚隆に、陽子は悪戯っぽく笑う。思わず見とれるような、可愛らしい、その笑み。

「あなたの百面相。──面白かったよ」

「──」
 何よりもそれが嬉しかった、と無邪気にのたまう女王。尚隆は、なんともいえぬ顔で押し黙るのみだった。

2006.07.20.
 御題其の二十二「奇妙な物体」の続き、でございます。 あれ、六太がいない……。仕事を押し付けられたかな?
 ああ……また玉砕。やっぱり、不調かも。でも、 書きたかったんです。 お許しくださいませ。

2006.07.20. 速世未生 記
(御題其の三十)
背景画像「幻想素材館 Dream Fantasy」さま
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