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御題其の三十一

観察記録

「──土産だ」

 満面の笑み。──なんだか、得意そう。何かと思ったら、桃の缶詰。──?

「──お前のほうが、よく知っているのではないのか?」

 あれ、顔が少し曇った。あんなに自信満々だったのに。何だか知らないで持ってきたのかな?

「それを俺に問うのか?」

 困った顔が、なんだか、可笑しい。ちょっと、意地悪してみようかな。顔を顰めて、開いてるし、と文句を言ってみた。

「それは……」

 拗ねた顔で言い訳。──もう、我慢できない! 陽子は堪らず吹き出した。

「──?」

 面食らった顔。不思議そうに首を捻ってる。涙が滲んだ目を上げて、そっと耳許で囁く。
「──六太くんから、取上げたりしたら、だめじゃないか。桃缶、私が開けたかったのにな」

「──人聞きの悪いことを。取り上げたわけではないぞ。置き去りになっていただけだ」

 ばつが悪そうなしかめっ面。──困ったひと。陽子はくすりと笑う。
「そういうことにしておこうか。ありがとう。──それに、よいものを見せてもらった」

「よいもの?」

 片眉を上げて問う、お得意の顔。陽子が大好きな、その顔。思わず笑みが零れた。
「あなたの百面相。──面白かったよ」

「──」

「何よりも、それが嬉しかった」
 ──なんともいえない顔。怒ろうか、笑おうか、逡巡するその顔。
 ──素敵なお土産を、ありがとう。そんなあなたが、誰よりも好き。もちろん、口に出して言ってはあげないけれど、ね。

2006.07.20.
 ──止まりません! ごめんなさい!
 御題三十「かの方の土産」の陽子視点です。 調子に乗りすぎ……。ほんとにごめんなさい! 

2006.07.20. 速世未生 記
(御題其の三十一)
背景画像「幻想素材館 Dream Fantasy」さま
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