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御題其の三十二

(利陽及び末声注意!)

思わぬ来訪者

 雲海に映る清けき月影。波間に揺らめくその光を、陽子はじっと見つめた。こんな晩には、あのひとがよく現れた。そう、あの月を背にして。
 空を見上げた。月を背に、黒い影が姿を見せる。陽子は目を見張る。──そんなはずは、ない。胸が、痛む。

 あのひとは、もう、いないのだから。

 見る間に近づいたその影は、陽子を認めたらしく、軽く片手を挙げた。あのひとと同じく騶虞を操る人影は、軽やかに露台に降り立った。そのまま明るく声をかけてくる。
「やあ、久しぶり」
「──珍しいところからご登場だね」
「──そろそろ、私が必要な頃かと思ってね」
 相変わらず飄々と言ってのけるその男は、陽子に人懐こい笑みを向けた。陽子はくすくすと笑う。

「変わってないね、利広」

2006.07.26.
 あや〜。また「尚隆登遐後」シリーズで、御題其の二十九「王さまの耳はロバの耳」よりも 前段階のお話でございます。 こうやって小出しにしないと書けない、というのもなんだか情けないです……。 ごめんなさい! 

2006.07.26.  速世未生 記
(御題其の三十二)
背景画像「幻想素材館 Dream Fantasy」さま
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