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御題其の三十四
陽子主上が漢前になったわけ
「──一体全体、どういう経緯でそのようなお姿におなりになったのです?」
主上の政務に差し支えるから、と冢宰浩瀚は景王陽子の執務室前に集まった女官を解散させた。女史祥瓊と女御鈴もそれぞれの仕事に戻っていった。
ようやく女官の黄色い声から解放されて一息ついた主に、浩瀚は冷静に問いかけた。祥瓊に典雅な長袍を着付けられ、漢前な姿を見せる女王は嫌な顔をした。
「──知っていてそう聞くのは嫌味だぞ、浩瀚」
「いいえ、全く存じ上げないことでございますよ。虎嘯が目で訴えていただけですから」
浩瀚は内心の笑みをなんなく隠し、真顔でそう言った。改めてつくづくとその姿を眺める。王に相応しい鮮やかな長袍を身に纏い、緋色の髪をすっきりと結い上げている主は凛々しかった。
しかし、そのほっそりとした身体はどう見ても男には見えない。かといって、はっきりと女性と断言もできない。なんとも中性的な魅力を備えていた。──女官が騒ぐわけだな、と浩瀚は微笑する。そんな浩瀚に、主は気まずそうに目を逸らす。
「──言ったらお前は怒るだろう?」
「おや。私が怒るようなことをなさったのですか?」
浩瀚は笑みを浮かべ、主を促す。主は苦笑して肩を竦めた。
2007.08.10.
ああ……3月から放ったらかしの「薮蛇」「墓穴」の続編でございます。 どうして纏まらないのでしょう……。誰か教えてくださいませ。
──「黄昏」に戻ります。
2007.08.10. 速世未生 記
(御題其の三十四)
背景画像「幻想素材館 Dream Fantasy」さま
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