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御題其の三十八

(1周年記念リク第2弾)

熊将軍の長〜い一日 

桓魋かんたい、大変だ!」
「どうした、虎嘯」
 禁軍左将軍桓魋の許に、女王の護衛を務める大僕虎嘯が、血相を変えて駆けこんできた。
「陽子に逃げられた!」
「何!──!? これから客人がお見えになるというのに……」
 桓魋は眉を顰め、禁門に駆け出した。門に詰める閽人こんじんも、門を守る兵卒も、女王を見かけてはいないという。
「おう、桓魋、陽子はいるか?」
 くるりと踵を返した桓魋に、相変わらず突然現れた延麒が、陽気に声をかけてきた。桓魋は溜息をつきつつ応えを返す。
「只今、捜索中でございます……!」
「そっか、頑張れよ!」
 自王の出奔に慣れきっている延麒六太は、のんびりと手を振った。延麒を閽人に任せ、桓魋はまた走る。
「桓魋! 陽子を見なかった?」
 途中で襦裙を握った祥瓊に呼び止められた。更に簪を握った鈴にも声をかけられる。そして、桓魋は路門へ向かう。変装をして官に紛れて出奔したかもしれない。
「主上……勘弁してください……!」
 台輔に訊けばすぐに居所は分かる。しかし、後が怖いのだ。台輔の嫌味、そして何よりも──。

(景麒に頼らずに、私を見つけてみろ!)

 主のきつい一言が、耳に響いて離れない。桓魋は大きく溜息をつく。
 一度戻り、虎嘯と打ち合わせた。さすがに客人の訪問前に、王宮を抜け出したりはしないだろう、と結論を出した。雁国主従のような気安い客ではないのだから。
 桓魋は金波宮中を捜索し続けた。時間はどんどん過ぎていく。しかし、女王の姿はどこにもない。目撃者すら、いない。桓魋は疲れきった顔で内殿に戻った。
「どうした、桓魋」
「浩瀚さま……主上をお見かけしませんでしたか?」
「ああ、玻璃宮にて氾王と会見しておられる」
「──はあ!?」
 驚愕した桓魋は急ぎ玻璃宮に向かった。堂室の扉の前で護衛をしている虎嘯を見つけ、桓魋は情けない顔をする。
「──虎嘯……いったい、いつ、どこで見つけたんだ?」
「悪い……。客人の到着直前に、やっと見つけた。やっきになって飾りつけようとした女官から逃げて、玻璃宮に隠れてたんだと」
 ──どっと疲れが押し寄せてきた桓魋は、床にへたりこんだ。

「ほんと、勘弁してください、主上……」

 こうして、熊将軍の長い長い一日は、呆気ない幕切れとなったのだった。

2006.09.13.
 「1周年記念リクエスト」第2弾「熊将軍の長〜い一日」をお送りいたしました。 ああ、なんだか、またバカバカしいものを書いてしまったような気がいたします。 しかも、お客さまは、六太しか登場しなかったし……。う〜〜〜ん。
 リクをくださった方、ごめんなさい!  ご勘弁くださいませ……。

ひめさま

2006/09/17 16:46

 くまシャン、おつかれさまでした。
 桓魋と一緒でどっと疲れが押し寄せてきました、 ということは桓魋の気持ちに同化したとってことでしょうか。
 景麒を当てにさせなくしているなんて、陽子もだんだんと賢くなってますね(笑)。
 いやぁ気の抜ける面白さ、でした。

未生(管理人)

2006/09/17 17:15

 ひめさん、いらっしゃいませ〜。
 桓魋と一緒に切迫してくださってありがとうございます!  「景麒に頼るな」と釘を刺す陽子主上は、私のツボでございました〜。
 メッセージ、ありがとうございました!
背景画像「幻想素材館 Dream Fantasy」さま
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