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御題其の四十

(1周年記念リク第3弾)

冗祐の誓い

「──いいか?」
「いつなりとも」
「──では、まいる!」
 勇ましい掛け声とともに、景王陽子は凄まじい気迫で左将軍桓魋かんたいに打ちこむ。左将軍はその刃を真っ向から受けとめた。勝負を見守る主は僅かに顔を歪めた。
 女王の鮮やかな紅の炎が燃えさかる様を、主とともに見守る冗祐は、複雑な思いを隠せなかった。蓬莱で、初めて妖魔に襲われたときの娘は、恐ろしさのあまり、目を閉じてしまうほどか弱かったというのに。
 剣戟の音だけが響き渡っていた。紅の輝きがひと際増したとき、勝負はついた。女王の剣の切っ先が、左将軍の首の直前でぴたりと止まった。
「──勝負あったな」
「──まいりました」
「どうだ、景麒。私はもう、一人でも大丈夫だろう?」
 剣を下ろし、誇らしげに振り返る女王を見て、冗祐は少し淋しさを憶えた。そろそろ冗祐なしでも大丈夫だという女王の主張に、主は難色を示した。協議の結果、左将軍と試合って一本取ることができれば、主は女王の主張を認める、ということになったのだ。
「──仕方ないですね」
 主は深い溜息をつく。女王は晴れやかな笑みを見せた。左将軍はやれやれと口許を緩めた。
「というわけで、冗祐、長い間、世話になった。ありがとう」
「──強くおなりですね、主上」
「お前のお蔭だよ、冗祐」
 恭しく頭を垂れる冗祐に、女王は鮮やかな笑みを向ける。冗祐は感極まった。もう、この麗しき女王と、ともに戦うこともないのだ、そして──。

「──冗祐の役得も、とうとうお終いですね」

 冗祐の気持ちを読むような一言が、ぼそりと聞こえた。誰もが声なく左将軍を見つめ、それから、ゆっくりと女王に視線を移す。女王の顔が見る間にその髪と同じ紅に染まった。
「──桓魋」
 女王は夜叉の如き凄惨なな笑みを、そして主は悪鬼のような壮絶な顔を見せた。左将軍は、たらりと冷や汗を流したようだった。
「お前は、いったい何を考えたっ!」
「勿論、皆さまと同じことですよ……!」
「逃げるな、桓魋っ!」
 そう言いながら、殺気を感じた左将軍は踵を返して逃げ出した。怒声を上げた女王が、すかさずその後を追う。

「──冗祐、よもや、お前もそんな不遜なことを、思っているわけではないだろうな?」

「滅相もない!」
 驃騎に左将軍を追いかけるよう命じ、その場に残った主は、冷やりとする笑みを冗祐に向けた。冗祐は、胸に抱く己の役得を封印する、と心底誓ったのだった。

2006.09.23.
 「1周年記念リクエスト」第3弾「冗祐の誓い」をお送りいたしました。 真面目にはじめたはずが、不真面目に終わってしまいました。あれぇ?
 「冗祐の役得」、言わずもがな、ですよね……? 私、いつも思ってました。 「月影」のときには、既に冗祐つきだったはず、ですからねぇ……。 私、かしら?  いやぁ、「月の影〜」での冗祐の「わたしは全てを知っています」に悶絶したのは 私だけじゃないはず!  リクエストしてくださったKさま、そうですよね? (有無を言わせぬ問い)
 ──今更、ですよねぇ。

2006.09.23.  速世未生 記
(御題其の四十)

Kさま

2006/09/26 00:29

 「冗祐の役得」とか「今更」とかってなんですか〜〜〜?  私わかんないです〜〜(笑)

 こんばんは。  リクを仕上げてくださってありがとうございます。 楽しく笑わせていただきました。
 真面目に話が進むので、コメディ指定だったのだけどな、と思いながら読み進んだら、 最後に爆笑しました。
 陽子がお礼をいうしんみりと良い場面で、桓タイってばなんて素敵な爆弾発言を(笑)
 「役目」と言いたかったのについ本音がポロリとこぼれたのですね。
 そしてその発言に陽子と景麒がすばやく反応出来たってことは (特に「不遜なこと」なんていっている景麒!)、実はそんなこと思ったことがあるって ことですよね〜。

 それより、「夜話」の当初の尚隆とv の場面でも陽子の中に冗祐がいたってことですよね。 でもって妖魔はオスだけだし、「ないものとして振舞え」って言明されているし…
 これって考えようによると尚隆×冗買oッコ〜〜〜〜〜ンッ!!!!!

未生(管理人)

2006/09/26 06:02

 Kさま、お待ちしておりました! やはり、リクエスターにコメントをいただかねば!
 でも、た、たすけて〜(笑)! 尚隆×冗祐はご勘弁! 
 「月影」最初で、陽子は冗祐付きを忘れてるけれど、尚隆は知ってました! でもでも……(笑)
 そして、景麒。私も書きながら「お前はそんなことを想像していたのかっ!」 とツッコミを入れておりました。
 ということで、今後、冗祐が陽子主上のお傍をうろうろすることはできないでしょう。 ガッツリ牽制されてしまいましたからね!
 メッセージ、ありがとうございました〜(笑)
背景画像「幻想素材館 Dream Fantasy」さま
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