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御題其の四十四

範国主従の密談

 その日、氾麟が主の執務室に入っていくと、主は物憂げに扇を弄んでいた。氾麟は小首を傾げた。
「主上、どうなさったの?」
「梨雪、猿王から鸞が来たぞえ。泰麒捜索のために麒麟を雁に寄越してほしいと」
 主は優雅に手招きをし、氾麟を己の隣に坐るよう促す。主の横に腰を下ろし、その膝に頭を預けた氾麟は小さく呟く。
「まあ……」
「嫌かえ?」
 主ははんなりと囁き、氾麟の頭を優しく撫でつける。氾麟は正直に胸の内を語った。
「泰麒を捜すことに異存はございませんけれど……。雁に行くのは嫌ですわ」
「だろうね。──それでは、行き先を変えようか」
「主上?」
 氾麟を身を起こし、主を見つめた。主はにっこりと美しい笑みを見せて頷く。
「慶に、戴国将軍が訪れたそうだえ。──戴の者に少し用がある。慶に向かおう」
「まあ、主上!」
 氾麟は目を見張り、それから花ほころぶように明るい笑みを見せた。主は開いていた扇を閉じ、口許に笑みを浮かべて氾麟に命じた。
「用意しやれ」
「はい、只今!」
 氾麟は弾んだ声で応えを返し、元気よく榻から飛び降りた。

2006.10.16.
 「黄昏」第13〜14回の裏で、各国首脳人が密談しておりました。 奏、才、恭、範……。みんな喧しいよ〜、と私は頭を抱えるのみでございました。
 というわけで、「黄昏」余話第1弾でございました。

2006.10.16.  速世未生 記
(御題其の四十四)
背景画像「幻想素材館 Dream Fantasy」さま
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