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御題其の四十八

延王初襲来

 慶東国国主景王が住まう金波宮禁門。原則として王と宰輔しか使えぬはずのその門前に、一騎の騎獣が飛来した。賓客到来との報せは届いていない。
 禁門を守る門卒である凱之は少し緊張気味に騎獣に向かう。虎に似たその騎獣には見覚えがあった。主である景王と誼の深い、隣国の宰輔延麒が騎乗していた騶虞すうぐ。身分高き者しか乗ることのできぬ騎獣であった。
「──陽子はいるか」
 凱之が誰何するより先に、騶虞から飛び降りた人物が口を開く。簡素ではあるが仕立てのよい長袍を纏った偉丈夫が発する言葉は、笑いを含みながらも威厳に満ち溢れていた。
「小松尚隆なおたかが来たと伝えよ」
「畏まりました」
 誰何するまでもなく、凱之は来訪者に跪き、叩頭した。本名を知っているわけでない。しかし、国主景王の名を呼び、聞きなれぬ蓬莱風の名を持つ貴人といえば、雁州国国主延王尚隆その人しか考えられなかった。
 恩義ある隣国の王の前に、門卒たちが恭しく叩頭する。そして、厳かに禁門が開かれた。急ぎの報せに、国主景王が血相を変えて駆けてきた。
「──延王、突然どうなさったのです?」
「ずいぶん大袈裟だな。遊びに来てはいけないか?」
「──」
 返す言葉なく脱力する主に、凱之は少し同情を感じる。延王は楽しげに大きく笑うのみだった。気を取り直した主は、溜息混じりの言葉を凱之たちにかける。
「──お前たち、このひとはこういうひとだから、とっとと門を開けて、仕事に戻っていいぞ」
「陽子、お前も言うようになったな」

 それから、延王尚隆は突然ふらりと現れるようになった。主の命令どおり、担当の門卒は恭しく門を開け、気儘な隣国の王に逆らうことはなかったのだった。

2006.11.07.
 先日、Kさまよりご質問をいただきました。

>尚隆が延王として初めて金波宮に訪れたのはいつでしょうか?
>「黄昏」の時? それ以前?

 答える前に。私の脳内では
と理解しております。その際は、事前に鸞や書簡にて訪問要請しているのではないか、と。 その他に、
があるのではないかと妄想しております。なので──。

答え。
 延王としてふらりと現れた最初の場面というのは、書いたことがなかったな〜と思い、 御題にしてみました。(「黄昏」第18回にまた少し詰まりましたので……笑、えない)
 私的にはこれで矛盾がないのですが……。Kさま、皆さま、如何なものでしょうか?  ご意見お待ちいたしております。

2006.11.07.  速世未生 記
(御題其の四十八)

Kさま

2006/11/08 23:13

 遅ればせながら、疑問解決編ありがとうございます。
 なるほど、とすると「僥倖」以降は延王としてお忍びで遊びにしょっちゅう遊びに来ている のですね〜、皆がなれるくらいですから(笑)
 なにかあって延王として来訪したのではなく、ふらりと(延としては) ごく普通にバラしたのですねぇ。
 じゃ、そうなると次の疑問。

 国府の官吏は勅使として、禁門の警護たちは延王としてしか尚隆と会っていないので それでよいのですが、燕朝内の者、高官や近従、お世話をする天官などは まだ人手がたりないのだから両方の尚隆と会うことになるはずですね。
 遠目にしか会わないのなら雰囲気の違いで気づかないかもしれませんが、 お世話係になった掌客殿の天官もしくは鈴や祥瓊、玉葉なんかは間近で会う可能性が高いですよね。
 勅使が実は延王だったと気づいてびっくりしたり、なんで勅使に変装を? と疑問に思ったりしないのかしら?

 …重箱の隅つつきまくりで、しかも煮詰まりからの逃げ道を提示しているような気もします(笑) が、どうでしょう?

未生(管理人)

2006/11/09 09:13

 Kさま、いらっしゃいませ〜。
 疑問解決及び次の疑問ご提示ありがとうございます(笑)。 回答は長くなりそうなので、今度別スレ立てますね〜。
 メッセージ、ありがとうございました。
背景画像「幻想素材館 Dream Fantasy」さま
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