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御題其の五十一

朝議の後で

 執務室に戻るなり、景王陽子は書類を書卓に叩きつけた。雑用をこなしていた下官が思わず肩を竦める勢いで。
「おやおや、随分ご立腹でございますね」
「お前は腹が立たないのか!? 代替案も出さずに、駄目出しだけする輩だぞ!」
 相も変わらず涼しげに笑う冢宰に、陽子は苛々と言い返す。そんな女王を宥めるように浩瀚は口を開く。

「──口に出す輩のほうが、まだましなのですよ、主上」

「──」
 陽子はその諫言に潜むものを感じ、はっと浩瀚を見上げる。浩瀚はにっこりと笑みを浮かべ、女王を見つめ返す。そして、おもむろに語った。
「頭を冷やして、発言しない者の表情をも、的確に読んで御覧なさいませ。熱くなればなるほど、そういう輩の思う壺でございますからね」
「──なるほどな」
 慈愛の笑みを向けつつも、厳しい諫言をする己の股肱に、景王陽子は女王に相応しい不敵な笑みを返して大きく頷く。主の反応に満足した浩瀚は目を細めて頷き返した。

「さて──」
 我が主上の御為にならない連中をどう追いつめるか。

 女王の執務室を辞した浩瀚は、主には見せることのない酷薄な笑みを浮かべつつ懸案に頭を巡らせた。

2006.11.29.
 昨夜、ある会議に出席し、頭がぶち切れそうになりました。 発言に権威のない若輩者といたしましては、意見を求められるまでは口を開くこともままならず……。
 駄目出しをしておいて代替案も出さず、しかも、会議に代理人を出席させるなど、言語道断!  文句を言う資格なし!
 ──昨日は興奮して眠れず、起き出して一杯引っ掛けてから寝たので、今朝は見事に寝坊でございます。
 浩瀚〜〜、私にも知恵を貸してくれい!

2006.11.29.  速世未生 記
(御題其の五十一)
背景画像「幻想素材館 Dream Fantasy」さま
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