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御題其の五十四

事の顛末

「──邪魔したな」
「待って、六太くん……」
 ひとしきり笑った後、六太は片手を挙げて踵を返した。そんな六太を、陽子が呼び止める。訝しげに振り返ると、陽子は困ったような笑みを見せた。
「もう少し、ここにいてくれないか?」
「お前なぁ……。王はな、自ら責任取る覚悟がないことは、やっちゃいけないんだぞ」
 困惑する陽子と、全ての髪が色とりどりの組紐に結ばれた三つ編みとなった尚隆を見比べながら、六太はにやりと笑った。
「勿論、覚悟してやったよ! でもね、せっかく来てくれたんだから、最後まで見届けて」
 陽子はぎこちない笑みを浮かべ、必死に言い立てる。とうとう六太は堪えきれなくなり、ぶはーっと吹き出した。
「──なんだ?」
 爆発的な六太の笑い声に、ぐっすりと寝入っていた尚隆が目を開けた。見下ろす陽子に笑みを向け、笑い転げる六太を見やる。尚隆の視線を受けて、六太は笑い止めた。それから、にやにやと尚隆を見返す。
「──お?」
 訝しげに起き上がった尚隆は、己の髪に結ばれた沢山の組紐に気づいた。ゆっくりと首を巡らせる尚隆と目が合い、陽子はにっこりと笑みを返す。尚隆はそのまま黙して陽子を見つめ続けた。
 見つめあう二人の間には、そこはかとない緊張が漂っていた。六太は固唾を飲んで成り行きを見守る。陽子の笑みが次第に引きつってきた頃、尚隆がにっこりと笑みを浮かべた。
「──陽子」
「な、なに?」
「楽しかったか?」
 尚隆はにっこりと微笑んだまま、そう訊ねた。問われた陽子は強いて笑顔を保ち、応えを返す。
「うん」
「それはよかった」
 尚隆は大きく頷いて、陽子の頭に手を乗せた。陽子はほっとしたように身体の力を抜いたが、六太は、そんな尚隆の様子に、危険な香りを感じていた。
「陽子!」
 油断するな、と六太が言い終わる前に、陽子の小さな悲鳴が上がった。遅かったか、と六太は深い溜息をつく。
「尚隆……!」
「俺も楽しいぞ」
 六太は、それでも尚隆を咎める。 尚隆はくつくつと笑うのみだった。

 その日の夕食時、延王夫妻は奇妙な姿で現れた。三つ編みを沢山ぶら下げ、機嫌よさげな国主延王と、隠しようもないところに見るも鮮やかな所有印を刻まれて涙目の慶国女王──。
 口喧しい雁国の官吏たちは、みな一様に目を剥く。しかし、何があったのか一目瞭然なその姿に、問いかける者も咎める者もない。ちらりと見ては気まずそうに視線を外す下官たちを眺め、宰輔延麒は苦笑を浮かべて嘆息した。

2006.12.04.
 御題其の五十二「六太の感想」の続きでございます。 続きを予想してくださった方々、如何でしたでしょうか?
 昨日は末声を書いていたというのに、今日はこれですか……という感じの仕上がりとなりました。 「黄昏」第22回を半分程度仕上げ、リク物いくぞ!  と気合を入れつつも、何故か御題を書く私……。我ながら哀れでございます。
 さて、これから出かけてまいります。ああ、もう外は暗いわ〜。

2006.12.04.  速世未生 記
(御題其の五十四)

ひめさま

2006/12/06 12:55

 副題
 『涎王尚隆』
 はいかがでしょう?

未生(管理人)

2006/12/06 14:24

 ──(爆)!
 ひめさん、いらっしゃいませ〜。出かけて帰ってきたら、素敵な副題が……!  笑わせていただきました〜。
 メッセージ、ありがとうございました。
背景画像「幻想素材館 Dream Fantasy」さま
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