「目次」
「玄関」
御題其の五十七
(微妙に「氾陽」注意!)
悪戯の成果
「そなたは、ほんに可愛いのう」
氾王は楽しげにそう言い、小衫一枚の己の姿に羞じらう陽子を抱き寄せる。その優しげでいて強引な行動に、陽子は目を白黒させた。まったく、王と呼ばれる者は、どうしてこうも人に有無を言わせないのだろう。
──無
論、そんな本音を口に出すことはできない。
しかし、氾王の抱擁は、まるで陽子を氾麟と間違っているような、幼い者に対するものであった。細身で柔弱に見えながら、しっかりと男性である氾王に抱かれて、陽子が危険を感じなかったのは、そんなわけもあったのだろう。
「さて、咲き初めた花を、更に美しく咲かせる手助けをしようかの」
はんなりと微笑むと、氾王は硬直する陽子に華やかな襦裙を着付け始めた。そして、手ずから陽子の髪を結い、装飾品までをひとつひとつ吟味する。陽子はその様に、範は匠の国なのだと実感した。
「さあ、できた。どうだえ、美しいであろ?」
氾王に促されて鏡の中の自分を見た。あまりの変わりように、陽子はただ目を丸くする。氾王はそんな陽子を見て、また笑った。
「さて、疲れた者どもの目を癒しに参ろう。その前に……」
ふわりと抱きしめられたかと思うと、しなやか手に頤を持ち上げられた。そして、氾王は小鳥が啄ばむような口づけを落とした。
「──!」
「美しい花は、見るだけでなく、触れてみたくなるものだよ」
唇を押さえて真っ赤になった陽子に、氾王は悪戯っぽく笑いかけ、先に立って歩き始めた。
2006.12.15.
ああ、また書いちゃったぁ……。 このお話は御題其の四十六「氾王の悪戯」の続きにあたります。 「黄昏」第23回を書いていたら、物凄く書きたくなっちゃったのです〜。 はい、怒られないうちにワードに戻ります。
2006.12.15. 速世未生 記
(御題其の五十七)
背景画像「幻想素材館 Dream Fantasy」さま
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