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御題其の五十八

氾王の疑問

 氾王の髪を結う女史祥瓊は、満面に笑みを浮かべていた。鏡越しにそれを眺め、氾王は微笑する。今日氾王は、祥瓊が用意した襦裙を、初めて一度で袖を通したのだった。素直に喜びを表す女史を見つめ、氾王は問う。
「のう、祥瓊、景女王は、どうして襦裙を纏わないのだえ?」
「我が主は胎果ゆえ、気楽な服装を好んでいるのでございます」
「──確かに、猿王を見ても、それは分かるが、惜しいのう。あれだけの美貌を持ちながら……」
 氾王がそう言うと、女史は大きな溜息をついた。女王とは違う美しさを持つ娘は、哀しげに呟く。
「私どもも、そう思っております……」
「おやおや、景女王は、麗しいそなたを、そんなにも悩ませているのかえ」
 氾王は楽しげに笑った。そして、鏡越しに女史を見つめ、にっこりと頷く。
「よいことを聞かせてくれたね、祥瓊」
 言われて女史は、白い面を桜色に染める。その様を眺め、氾王はまた微笑した。

2006.12.23.
 ああ、「黄昏」モードでございます。 昨日と今日とで、第25回をほぼ仕上げてしまいました。 自由時間があと僅か、と思うと、筆も進みますね〜。
 というわけで、「黄昏」余話な御題と相成りました。 御題其の四十六「氾王の悪戯」の前段階のお話でございます。
 ──季節物が苦手な私でございます。 全然クリスマスのお話がなくて、ごめんなさい!

2006.12.23.  速世未生 記
(御題其の五十八)
背景画像「幻想素材館 Dream Fantasy」さま
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