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御題其の六十
傷心旅行
恭州国首都連檣、国主供王が住まう霜楓宮。ふらりと現れた客人は、供王珠晶に軽く拱手した。珠晶は僅かに眉を顰め、客人を尊大に迎え入れた。
「あら、お珍しい方のお見えね」
「やあ、珠晶、久しぶり」
人懐こい笑顔を見せる客人は、無邪気に挨拶する。相変わらず揶揄の通じないひとだわ、と呟き、珠晶は眉根を寄せた。
「相変わらず、無礼なお出ましね、利広。今回はどうしたの?」
「いつもの旅の帰りだよ。ちょっと耳に入れたい報せもあったしね」
そう言って朗らかに笑い、利広は珠晶に土産を手渡した。その貢物を受け取り、珠晶は顔をほころばせる。
「気遣いだけは忘れないわね。あら、慶のお茶。白端じゃないの」
軽く目を見開き、珠晶は手を叩いて下官を呼び寄せる。客人の土産、慶東国名産の茶「白端」を淹れてくるよう命じ、供王珠晶は下官を下がらせた。
小さく嘆息して振り返り、珠晶は利広をじっと見つめた。それから大きく息を吸い、珠晶は腰に手を当てる。
「──言っておくけど、あたしは利広の傷心を慰めたりしないわよ」
「相変わらずだねえ、珠晶」
そう断じて睨めつける珠晶に、利広は大笑いする。勝気な女王は、利広の予想通り、鋭すぎる応えを返した。その変わらなさが、却って慶で受けた利広の傷心を慰めるのだった。
2007.01.04.
拍手其の十四を加筆修正して持ってまいりました。「僥倖」連作の続編にあたります。
いやはや、年明け最初のアップが焼き直しで、なんとも申し訳ないのですが……。 某所さまのお祭で先陣を切った作品でございます。
ほんとは纏めて短編にしようと思っておりましたが、いつになるか解らないので、 御題に出してしまいました。続きの2作もその内出したいと思います。
2007.01.04. 速世未生 記
(御題其の六十)
背景画像「幻想素材館 Dream Fantasy」さま
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