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御題其の六十一

傷心旅行、その後

 銘茶の馥郁とした香りが堂室を満たす。供王珠晶は大きく息を吸い、にこにこと笑みを見せる客人に訊ねた。
「──それで、どうだったの?」
「話すほどのことではないよ」
「莫迦ね、誰が利広の傷心の話なんか訊くのよ! 旅の話に決まってるじゃないの。報せって何なの?」
 利広の土産、慶の名茶「白端」を啜りながら、珠晶は怒声を上げる。茶菓子をつまんでいた利広は、身体を折って大笑いした。
「珠晶。長旅をしてきた客人を、少しは労ってもいいんじゃないかい?」
「あら。利広は客人なんかじゃないじゃないの」
「手厳しいね、女王さま」
「傷心する度に現れる無礼な男なんて、労う必要ないと思うわよ」
 眉根を寄せて、珠晶は利広を睨めつける。利広は口許に笑みを浮かべただけだった。来たるべき反論を受けようと身構えていた珠晶は、少し拍子抜けする。
「あら……いつになく深刻なのね」
「そうかな?」
「違うの?」
 小首を傾げる珠晶から目を逸らし、利広は窓の外に目を向ける。微かに愁いを秘めたその横顔を見つめ、珠晶は小さく溜息をついた。

「いい? 利広、身の程を弁えなさい。高望みは駄目よ」

 利広に指を突きつけ、珠晶は子供に諭すようにそう言った。何故分かるんだろう、と利広は大きく目を見張る。しかし、無論それを口に出すことはなかった。利広は、ゆっくりと笑みを浮かべ、恭しく拱手した。

「──女王さまの思し召しのままに」

2007.01.07.
 御題其の六十「傷心旅行」の続編でございます。 これも拍手其の十六を加筆修正してまいりました。
 実はこれ、「珠晶にはビシっと言ってもらいましょう」というTさまの一言でさくさくと 書き流した代物でございます。 ──あくまでも利広を慰めない珠晶。私は大好きでございます〜。 「僥倖」の顛末を知ったら、いったい何を言うでしょうね……? うわっ、コワ!

2007.01.07.  速世未生 記
(御題其の六十一)

けろこさま

2007/01/08 00:45
 こんばんは。
 「『僥倖』の顛末を知ったら…」だなんて、知りたいです!ワタクシも!  ビシバシに叱るのか、開いた口が塞がらなくなって脱力してしまうか、それとも…?
 いや〜んv 楽しそうじゃないですか〜(妖笑)

未生(管理人)

2007/01/08 07:12
 けろこさん、いらっしゃいませ〜。
 げげげ、墓穴! なんとなく頭に浮かぶんですけど、情景が……。 で、でも、手をつけている暇があるのでしょうか? 
 ああ、なんか、妄想を昇華する時間を、私にお恵みください!  と叫びたい気分でございます〜〜。
 メッセージ、ありがとうございました。
背景画像「幻想素材館 Dream Fantasy」さま
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