御題其の六十二
いつか雪景色を
小雪が降っていた。温暖な慶では珍しい。ちらちらと降る雪を眺め、陽子が呟く。
「──尚隆、雪って辛いものなの?」
「きちんと対策さえ立てれば、辛いものなど何もないぞ」
尚隆は笑う。陽子は振り返り、少し唇を緩めた。
「そう……だよね。私は、雪が降ると、嬉しかったもの……」
蓬莱では、という言葉を、わざと呑みこんだように思えて、尚隆は伴侶を不憫に思った。
「──蘭玉は、新王が登極して雪が少なくなったと喜んでいた。祥瓊は、雪が降ると里家で暮らした辛い日々が甦ると嘆いた……」
今の慶では、雪を楽しむことはできない。陽子はそう言って溜息をついた。それでも、気遣わしげに見つめる尚隆に、伴侶は鮮やかな笑みを返す。
「だから、桂桂が、雪は降ったほうがいいって言ってくれて、私は嬉しかったんだ」
「いつか、慶が落ち着いたら、ゆっくり雪を楽しむといい。俺が案内してやるから」
内乱が平定されたばかりの若い国。戦に荒れ果てた街を見つめ、いつかって、いつだろう、と小さく溜息をつく伴侶を抱きしめた。
「──焦るな。どうせ、寿命は長いのだ。俺は、いつまでも待っているからな」
伴侶は大きく目を見張り、ゆっくりと笑みをほころばせた。
「うん、いつか、必ず、雪景色を見にいくよ」
いつか、必ず。
誓いを籠めて、尚隆は伴侶に口づけを贈った。
2007.01.09.
このお話は「黎明」第23回69章あたりと想定して書き流しました。
珍しく季節物でございます。
今年の冬は15年ぶりの暖冬だそうです。
お正月に実家に帰っても、ちっとも冬らしくなく、ちょっとがっかり……。
私が育った北の町は、夏と冬の寒暖の差が60℃にもなる厳しい土地柄なのです。
最高気温が+になる暖かい冬なんて、物足りない〜!
そんなわけで、冬のお話を書いてみたくなったのでした。
2007.01.09. 速世未生 記
(御題其の六十二)
滄龍さま
2007/01/09 23:55
こんばんは。
私が住んでいるところは、子供のころに比べると、あまり雪は積もらなくなりましたが、
やっぱり積もると嬉しいものです。
つい雪だるまを作りたくなりますv
積もった日が出勤日ならば、会社で休憩時間に作ります。
いつか国が落ち着いて雪を楽しめるようになったら、陽子と桂桂とで雪だるまを作ったり
することもあるかもしれませんね。
その時、お互いどんな雪だるまを作るのかしら。
未生(管理人)
2007/01/10 06:31
滄龍さん、いらっしゃいませ〜。
雪のあまり降らない地域では、雪が積もったら雪だるま、なのですね〜。
なんだか微笑ましいです。
陽子と桂桂が雪だるまを作れるように、早く慶が落ち着くといいなぁ。
そんなほのぼの雪だるまを思い浮かべつつ、私は昨日しそびれた30cmの雪を除雪いたします。
ああ、やっと冬らしくなりました♪
メッセージ、ありがとうございました。