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御題其の六十三

かの方の企み

「──さて、きりきり働いてくださいよ。私も、そう暇じゃない」
 華奢な腕を組み、麗しい顔を顰めて、紅の女王は睨めつけてくる。延王尚隆は嘆息しつつも笑みを見せた。
「見目麗しい見張りで、俺は嬉しいぞ。欲を言えば、もう少し、にこやかにだな……」
「──口よりも手を動かしてください。私が、どうしてここにいると思っているのです?」
「俺の目を楽しませるためだろう?」
 にやりと笑いかけると、女王は存外に爽やかな笑みを返してきた。尚隆は片眉を上げる。

「──あなたは、本当に、私を、怒らせたいのですね? 後悔、しないのですね?」

 抑えた口調に秘められた、その覇気。いつの間に身に着けたのか、延王尚隆をもたじろがせる、その威厳。尚隆は肩を竦め、怒れる女王に苦笑を送る。
「──後悔せぬよう、疾く片付けるとしよう」
 その応えに、女王は勝ち誇った笑みを浮かべ、尊大に頷いた。

「景女王は、美しいだけでなく、斯くも有能だ」
「あの主上に、こんなに仕事をさせられるとは……」
「いっそ、主上の后妃になって、いつも尻を叩いていてほしいものだ」
「おいおい、隣国の女王だぞ……」
「仕事が片付くならば、構うものか」
「そうそう、主上を働かせるあの才、主上を釘付けにするあの美貌……」
「主上の伴侶は、あの方を置いて他にない」
 山のような御璽押印済の案件を、満面に笑みを湛えて持ち帰る官吏たちが、口さがなく言い立てていた。稀代の名君と称えられる己の主を悉く腐し、隣国の女王を敬い奉るその姿。

「──だそうだぞ、景女王」

 衝立の陰にしゃがみこんで立ち聞きしていた人の悪い国主は、楽しげに語りかける。同じくしゃがみこまされていた隣国の女王は、思い切り顔を顰めて横を向いた。

2007.01.24.
 最近、苛められっぱなしの陽子主上に救いの手を! とばかりに書き流したのですが、 うちの尚隆は、どうもやられっぱなしを潔しとしないようですね……。
 そして、今日は水曜日。そろそろ、頭が壊れてくる頃でございます。 はい、ごめんなさい! ワードに戻ります〜。

2007.01.24.  速世未生 記
(御題其の六十三)
背景画像「幻想素材館 Dream Fantasy」さま
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