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御題其の六十六

白き闇に潜むもの

 雪が斜めに降っている。激しく降りしきる雪に、すぐ傍の木々も朧に霞んで見える。まるで、白い闇に捉えられたように吹雪いている。その中で、荒れ狂う風に靡く紅の髪だけが色彩を有していた。
 逆巻く雪を見上げ、黙して動かぬ女王は、天に戦いを挑んでいるかのように見えて、背筋が冷えた。風に弄られる髪は、血の色に、似ている。──背に、戦慄が走った。
「──そろそろ、中に入ろう」
 思わずそう促した。伴侶は振り返り、名残惜しげな貌をする。ゆっくりと首を横に振り、小さな手を引いた。伴侶は微かに頷き、尚隆に従った。

2007.02.08.
 中編「雪明」第4回第8章の尚隆視点でございます。 冬の初めから胸に抱いていた想い。 散文「まぼろし」にも少し書きましたが、雪と陽子の髪は、妄想を刺激するのでございます……。
 ほんとは「雪明」を先に出そうと思っておりましたが、なかなか纏まらないので、 リハビリを兼ねてこちらを出してみました。

2007.02.08.  速世未生 記
(御題其の六十六)
背景画像「幻想素材館 Dream Fantasy」さま
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