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御題其の六十七

(1周年記念リク第9弾)

果実の秘密

 桃の缶詰を尚隆に台無しにされて、六太は立腹していた。しかも、その桃缶を、尚隆はひとりで陽子に届けに行ったのだ。陽子は喜んでくれた、と帰国した尚隆はしれっと告げた。六太は更に激怒した。尚隆への報復を考えるほどに。
 先日、桃缶を手に入れたときに、蓬莱で耳にした面白い話。ちょっと笑っただけの「それ」を、実践してやる。後で吠え面かくなよ、尚隆。そう胸で呟き、六太は蓬山から手に入れた土産片手に、颯爽と慶へ旅立った。

 金波宮に着いた六太は、恭しく頭を下げる凱之に騶虞の手綱を渡した。そして、慣れた調子で陽子の執務室に向かう。が、陽子はいない。書卓に土産を置き、六太は考える。ここで大人しく待つのは性に合わない。捜しに行こう。
 その後、六太は陽子を捜し求め、金波宮内を流離った。さっきまでそこにいたのに、と女史祥瓊に告げられ、六太は肩を落とす。一度執務室に戻った六太は仰天した。置いたはずの土産がないのだ。
 焦って陽子の執務室を飛び出した六太は、歩いていた女御とぶつかった。鈴は申し訳なさそうに詫びる。陽子は今休憩のために書房に向かったところだと。それだけ聞いて、六太はまた走った。
「陽子!」
 書房で陽子を見つけた六太は、喜びに満ちた叫びを上げる。背を向けている房室の主の肩が、ぴくりと跳ねた。振り返らない陽子に、六太は訝しげに声をかける。
「──陽子?」
 振り向いた陽子は奇妙な顔をしていた。六太は持ってきた土産の行方を訊ねることも忘れ、更に問いかける。
「──何やってんだ、陽子」
 ごめんね、と陽子は気まずそうに俯いた。その小さな手が隠す土産の果実を見て、六太は思いついたことがあった。
「もしかしてさ、軸を口の中で結ぼうとしてたりするか?」
「──お行儀が悪いから止めなさいって言われて、やったことなかったんだ」
 そう言って頬をほんのりと染める陽子は可愛らしかった。六太は思わず小さく吹き出した。笑わないで、と少し拗ねる陽子はもっと可愛らしい。六太は己の邪な考えを、ちょっぴり恥じた。
「でさ、できたのか?」
「──ううん」
 陽子は残念そうに首を振る。六太は苦笑し、軽く溜息をついた。きっとそう言うと思って、練習してきたのだが。
「──今度、尚隆にやってもらえ。きっと巧いぞ」
 え、と陽子は目を見張る。やっぱり知らなかったか、と思い、六太は陽子の耳許で囁いた。口づけが巧い奴は桜桃の軸を結ぶのも巧いんだってさ、と。にやりと笑って見つめると、思ったとおり、陽子は真っ赤になって俯いた。

2007.02.22.
 「1周年記念リクエスト」第9弾、「果実の秘密」をお送りいたしました。 万歳! これにて「1周年記念リクエスト」、完了でございます〜!  まさか半年もかかるとは思いませんでした。リクエスターの方、ほんとにごめんなさい〜! 
 その上、リクに応えきれていないですね……。 御題にしては長いし(これ以上、入りませんでした)。 重ね重ねごめんなさい〜。 そして、ああ……まだちょっぴりモモイロを引きずってます。 微妙に「六陽」だわ……。ご容赦くださいませ!
 ちなみに「奇妙な物体」から始まるシリーズの続編になっております。

2007.02.22.  速世未生 記
(御題其の六十七)
背景画像「幻想素材館 Dream Fantasy」さま
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